百貨店大手、初の「夏セール2回実施」の功罪 冬も2回実施に向け動きだすが、課題も残る

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大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJ. フロント リテイリングでは、夏セールの効果が薄かったようだ(撮影:尾形文繁)

「話題性を高めるうえでは冬も2回にするのもよいが、需要喚起のための本質的な解決策にはならないのでは。顧客の購買パターンは変わってきており、特価だけで呼び込むのは難しい」と、同社関係者は語る。

J. フロントは「脱・百貨店」経営を掲げ、小売りの枠を超えた不動産事業やサービス分野の展開を強化している。大量販売を前提とした従来の手法の延長であるセールだけに頼るのは、同社の改革路線とは相いれない面があるのだろう。

単なるセールは通用しない

ほかにも、冬のセール2回実施について慎重視する向きはある。顧客は夏服についてはある程度の量を必要とし、衣料品の単価も安いので、セールの効果がある。UV(紫外線)カットや汗吸収の商品など夏ならではの衣料品も、比較的長い期間需要がある。

一方、冬は最も寒い1月に需要が集中する。衣料品の単価も高いため、シーズン中に長い間着ることができる商品を早めに購入する顧客が多い。あるアパレル関係者は「冬のセールは、そんなに長い期間を必要としない。2回実施したとして、夏と同じような効果を得ることができるかどうかはわからない」と語る。

百貨店業界はここ数年、ネット販売の台頭などを背景に衣料品の販売が低迷している。アウトレットも定着しており、いつでも安い商品を買える安心感が顧客にはある。他方、顧客は価格を下げただけでは飛びつかず、本当に欲しいものだけを見極めて買う傾向にある。

冬のセールを2回実施するとしても単に特売に頼るのではなく、魅力のある文化催事を開催したり、期間中の会員ポイント制度を手厚くしたりするなど、独自の工夫と対策が百貨店各社にはいっそう求められる。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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