「ノートe-POWER」がアクア対抗で執った秘策 今さら4WD追加は日産の悲願達成への布石だ

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4WDの設定は個人ユーザーに拡販できるだけではない。大きいのはレンタカーやカーシェアリングなど向けのフリート(法人向け)販売だ。降雪地域の冬季のレンタカーの主役は4WD。FFしかないアクアに対し、4WDもあるノートe-POWERなら降雪地域でも通年でレンタカーとして稼働させられるので有利となる。

いまは北海道あたりでは、訪日外国人もレンタカーを借りて思い思いの場所へ観光に出かけることが多いと聞く。また東南アジアなど雪の降らない地域からの訪日外国人観光客には、冬の北海道も人気が高いといわれる。冬の北海道でのレンタカーニーズもますます高まっていくことだろう。そこへノートe-POWERの4WDを売り込めることの意味はけっして些細ではない。この点でも雪国においてはアクアに差をつけられる。

いま日産ノートはテレビコマーシャルにおいて、「2018年上半期登録車販売台数ナンバーワン」と大々的にアピールしている。軽自動車の世界では販売台数にこだわることはよくある。いまでは小康状態となっているが、数年前まではスズキとダイハツ工業が激しくブランド別での事業年度締めや暦年締めでの年間や半期ごとの販売台数を派手に競い合っていた。

業界事情通が言う。「軽自動車は日常生活での移動手段としての割り切りが大きく、ぞれぞれのモデルへの強いこだわりは登録車に比べればかなり希薄なので、『軽自動車でいちばん売れているブランドです』とか、『軽自動車のなかでいちばん売れているモデルです』というセールストークが、購入を決定する際にはかなり効果的なのだそうです」。

「売れている車」という看板

同質性が強い日本人ならではかもしれないが、趣味性よりも実用性が重視される軽自動車やコンパクトカーにとっては、「売れている車」という看板は買うほうにとって安心感もあるのだろう。

現行ノートはもともと登録車トップを争うクルマではなかったが、e-POWERの想定外ともいえるヒットによって、事情は激変した。かつての絶対王者だったプリウスは4代目に移行して以前ほどの勢いはないし、アクアもモデル末期。日産にとっては、この好機においてブランド浸透効果もある「2018年登録車販売台数ナンバーワン」の肩書きを是が非でも獲得したい。ノートe-POWERの4WD追加はそれだけ意味のある施策といえる。

かといってトヨタも黙っていないだろう。日産、トヨタともに販売会社へインセンティブ(販売奨励金)を付けたり、フリート販売を強化したりなどの展開が考えられる。各販売会社自身による自社登録が裏側で繰り広げられるかもしれない。日産の悲願、トヨタの意地。2018年登録車販売台数ナンバーワンの王座を懸けた、熾烈(しれつ)な競争が年後半にかけて繰り広げられるに違いない。

小林 敦志 フリー編集記者

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こばやし あつし / Atsushi Kobayashi

某メーカー系ディーラーのセールスマンを経て、新車購入情報誌の編集部に入る。その後同誌の編集長を経て、現在はフリー編集者。

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