三陸鉄道に移管「JR山田線」復旧工事は順調か 宮古―釜石間には実質的な新線建設区間も

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浪板海岸駅の位置は高い。ところが山からの急流が谷を刻んでいるため、そこに津波が押し寄せ、跳ね上がった。水は築堤上まで到達して鉄橋を落としたが、山側に隣接する家はギリギリ無事だった。今は真新しい線路とホームとなり、鉄骨を組み待合室を建てている。

巨大水門を目の当たりにする大槌川鉄橋

船越湾岸を吉里吉里へと進む。線路はやはり高い位置にあり、ここは線路と駅ともに無事で、昔の風情のままである。

ラグビーワールドカップの試合会場の1つとなるスタジアムが至近の鵜住居駅(撮影:久保田 敦)

JR東日本の文字を残す待合室が、入口と窓に板を打ち付け佇んでいた。だが、駅下の道路付近は嵩上げ造成されており、新しいコンビニが営業している。

吉里吉里半島を横断すると眼下に大槌の町が広がる。山田線も勾配を駆け下り、長い鉄橋に差し掛かる。それがガーダー桁23連がすべて流され、橋脚9基が倒壊した大槌川橋梁である。河口は大槌湾の最奥部で広大な平地が市街地だったため、ここも津波と火災が町を舐め尽した。高台から見下ろすと、施設の全高17mの巨大水門、その左右方向には高さ14.5mの防潮堤工事が進められている。その内側はやはりすべてが造成中といった様子で、仮設、本設の道路が交錯する以外、土砂とコンクリートばかりに見える。それでも約2.2m嵩上げされた中心市街の跡地に線路が敷かれ、区画整理された敷地に家が建てられ始めている。

駅はシンプルな1面2線で、線路とホームしかない。ストラクチュアが乏しい鉄道模型ジオラマのようだ。陸中山田駅同様、町の玄関となる駅舎は大槌町が建てることになっており、ひょうたん島形の屋根とテラスを持つプランがデザイン総選挙により決まっている。

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また小さな峠を越えると釜石市の鵜住居。そこも大槌湾岸で被害が大きかった。やはりかさ上げされて、駅一帯は次第に区画整理が整ってきた。ラグビーで一世を風靡した釜石のこととて、復興に弾みをつけようと高台に移した小中学校跡地にスポーツ公園を整備中で、至近距離にそのメインスタジアムが姿を現している。来年秋、日本開催のラグビーワールドカップ2019では、予選や日本代表の調整試合等の一会場と予定され、それまでにどれほど景観が変わってゆくか、期待されている。

両石湾岸へと抜けた両石駅は無事だった。復興まちづくり地区の1つとされ、小さな入江の漁港を見下ろすホームは簡易ながら完全な新設で建設されている。一段低い、ロータリーと思しき造成地に待合室も建設中。それより最後の山越えをして市街地に下れば、釜石に着く。駅舎は新日鐵住金の名となった巨大な製鉄所工場と対峙しており、JR駅舎にJRグループのホテルフォルクローロや、観光物産館「シープラザ釜石」が並び、ここは観光拠点らしさを漂わせている。三陸鉄道南リアス線の駅はそれらの大きな建物とは対照的に、小さな間口で佇んでいる。山田線移管後も、ここはJR釜石線の駅と共存して現在の姿を続ける。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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