一流の科学者が「神の存在」を信じるワケ 最先端を突き詰めた先に見たものとは?

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どうしてルメートルにクレジットがいかなかったかというと、ルメートルの謙虚な人柄と、科学と宗教という「不毛な議論」をさけようとした姿勢のためだとされている。しかし、これも意外なことに、非常に早い段階で、教皇により「ルメートルらの発見は神の創造を科学的に証明したもの」で「ビッグバンはカトリックの公式の教義に矛盾しない」と認められている。

「神の存在を信じる」ようになった理由

『最後に言っておきたいこと 私にとっての神』と題された短い最終章を読めば、三田先生がこの本を著された理由がわかる。子どものころに洗礼をうけたが、宗教にはさして興味なくすごしておられた。しかし、50代になって、物質と反物質の研究から宇宙のはじまりを見つめ、「神の意志を感じ」、「神の存在を信じる」ようになられたのだ。

"「ついに人間が宇宙のはじまりを、神を持ち出さずにすべて理解した。もはや神は必要ない」と考えることは、それこそ思考停止なのではないでしょうか。どこまでいっても、宇宙をすべて理解した、と言いきることは決してできないはずだからです。"

『科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

創造主としての神を信ずる姿勢は、「自然に対して最も謙虚であるべき科学者」と全く矛盾しない。ドーキンスが拒絶する思考停止とは真逆で、科学と神について考え続けることこそが正しいく科学的な姿勢である、というのが三田先生のお考えだ。

"初めに神は物理法則を創られた。そしてエネルギーの塊から物質と反物質を創られた。物質の方がほんの少し多かった。同量の物質と反物質は消滅しあい、エネルギーに戻った。ほんの少し多かった物質が残った。"

そして神は天地を創られた。

もし『三田一郎版聖書』があれば、こういう書き出しになるらしい。なるほど、こんな神なら存在しうるのかもしれない。

これほど素晴らしい知的刺激にあふれた本、それも、日本人によって書かれた本はめったにない。科学に興味のある人にも、宗教に興味がある人にも、いや、どちらにも興味のない人にこそ読んでほしい1冊である。

仲野 徹 大阪大学大学院・生命機能研究科教授

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なかの とおる / Toru Nakano

1957年、大阪市旭区千林生まれ。大阪大学医学部卒業後、内科医から研究の道へ。京都大学医学部講師などを経て、大阪大学大学院・生命機能研究科および医学系研究科教授。HONZレビュアー。専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。著書に『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社、2017年)、『からだと病気のしくみ講義』(NHK出版、2019年)、『みんなに話したくなる感染症のはなし』(河出書房新社、2020年)などがある。

 

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