実際のところ、フォワードガイダンスにある、「当分の間」という期間はかなり曖昧だが、黒田東彦総裁などが説明しているように、英語で「for an extended period of time」となっている。たとえば、ECB(欧州中央銀行)が2016年1月から、約2年半にわたり同様のフレーズを使い金融緩和を維持していたことなどを踏まえると、1年以上の時間軸を意味するというのが、無難な解釈になろう。
また、フォワードガイダンスについては、「2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」とされた。2019年10月の消費増税による不確実性に言及し、長短金利を据え置く可能性が示唆される。「消費増税」と「当分の間」の関係は明確に示されていない。ただ、声明文にこのフレーズが入った過程には、今後想定される消費増税によって、脱デフレを目指す金融財政政策のレジームが2014年時のように揺らぐことを懸念するボードメンバーらの主張が反映され、今回のフォワードガイダンスの声明文に至ったと推測される。
財政政策と金融緩和政策の一体性、2%インフレの実現、を重視するメンバーの意向によって、(今後のインフレ率などの状況によるが)消費増税による不確実性が払拭されるとみられる2020年までは、日銀は利上げ判断を先送りする可能性が高まった、ということになる。なお2019年には「消費者物価上昇率の1%台半ばまでの上昇」が日銀審議委員によって想定されている。そうであれば、現行の金利水準が維持されればかなり金融緩和的な状況が訪れることになる。
「緩和縮小」か「緩和徹底」か、相違が残る状況が続く
一方、今回の、日銀金融政策の変更(調整)がわかりにくいのは、フォワードガイダンス導入と同時に、長期金利の変動容認(事実上は0.1%へとやや金利が上昇)、国債やETF購入金額については裁量によって上下が可能になるとの措置が、同時に実現したためである。
こうした措置は、緩和徹底・強化より、国債市場の機能低下などの副作用軽減のために、緩和度合いを調整していくことを重視するメンバーらの意向が反映されたのだろう。
つまり、日銀の審議委員の間に意見の相違があり、それぞれが主張する多くのメニューが取り入れられ、今回は、「金融緩和を弱める」と「金融緩和を徹底・強化する」という政策の折衷案となったということだろう。筆者は今回の日銀の政策変更がわかりにくくなった理由は、この点にあると考えている。そして、今回の政策変更が、緩和縮小の始まりなのか、緩和徹底を促すのかは、今後の議論の行方次第ではないか。
結局、「緩和軽減(緩和縮小)」と「緩和徹底・強化」の双方の立場が意見を交える状況は変わらず、ボードメンバーの間の意見の相違が残る状況は続くと筆者は見込む。このため、2%インフレの実現可能性が高まるまで、現行の金融緩和政策は長期化する可能性が高い。副作用を重視する立場のメンバーからは、今後インフレ率が少しでも上昇すれば、消費増税のリスクに目をつむり、長期金利の引き上げを検討する動きが出てくるかもしれない。
一方、2%インフレを重視する立場からは、長短金利引き上げ条件とインフレ率の関係をより明確にするなど、低金利政策を長期化するコミットメントを強めることを検討していく可能性がある。主たる政策ツールになるなりつつあるフォワードガイダンスの強化である。仮に、今後、日銀の中でそうした議論が活発になれば、為替市場にとってやや円安要因になると予想する。
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