鎌倉山の老舗会席「らい亭」復活劇の舞台裏 年間来客数が1万人以上も増加したワケ

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もちろん食事の新メニュー開発にも怠りない。ここでは特に興味深い「穂先タケノコそば」を紹介しよう。一般にタケノコといえば土から顔を出すか出さないかというものを土中から掘り出して収穫するが、2~3メートルくらいに育った竹も皮に包まれた先端部分はまだ柔らかく食べられるといい、これを穂先タケノコという。しかも、「一般のタケノコよりも、よりシャキシャキした食感が楽しめる」(岩村さん)そうだ。

「穂先タケノコそば」1600円(写真:らい亭)

この穂先タケノコを具に使ったのが2015年から提供している「穂先タケノコそば」で、春先が旬のタケノコよりやや遅く、ゴールデンウィークから5月末くらいまで味わえる初夏限定のメニューだ。

穂先タケノコが食べられることを知ったのは、大学での放置竹林対策の研究を通じてのことだ。「春のタケノコ掘りで収穫しそこなった竹を二段構えで収穫できる。穂先タケノコが食材になることが広く知られれば、竹が野放図に伸びるのを防ぎ、竹林保全の足がかりになるかもしれない」(岩村さん)との期待も膨らむ。

また、食事メニューではないが庭園の植物を生かすという意味で興味深いのが、アジサイを使って草木染めをした、らい亭オリジナルの「帆前掛け」だ。

アジサイを使って草木染めをした、マリエさんデザインの「帆前掛け」(写真:らい亭)

「アジサイは花が終わると丸裸になるくらい大量に剪定をしなくてはなりません。しかしアジサイは毒を持つので、花も葉も料理の皆敷(料理や器の下に敷かれる葉っぱなど)には使えません。その話をデザイナーさんに話したら草木染めの染料として使ってみたらいかがですか、とご提案いただいたのです」(岩村さん)

帆前掛けのデザインを担当するのは、モデル、タレントとして活躍し、自身のファッションブランドも持つマリエ(玉木・パスカルマリエ)さんだ。鎌倉山でのアトリエワークを行うマリエさんは、らい亭にしばしば食事に訪れており、たまたま穂先タケノコを収穫していた岩村さんに話し掛けたことから知り合い、今回の話が進んだ。

この帆前掛けは100着ほど作り、今後、鎌倉山ビアガーデンの店員が着用するほか、鎌倉市のふるさと納税の返礼品として出品する予定だ。

課題は?

以上のほか急激な客数増の背景には、これまで断っていたテレビのバラエティー番組のロケを解禁したことなどで、メディアへの露出が増えたことも大きい。

しかし、一方で、日本のサービス業全体で問題になっていることだが、求人の募集をかけても人が集まらず、慢性的な人手不足になっているという。「駐車場係が募集から採用まで3カ月もかかったことも。繁忙期は、せっかくお客様が来てくださっても対応しきれず、少なからず取りこぼしが発生している可能性があります」(岩村さん)というのが、目下の課題だ。

そんな状況ではあるが、岩村さんはあと4年でらい亭の仕事は自分が毎日携わらなくても業務が回るようにすることを目標にしている。その後は念願の大学院に通い、店の業務を通じて学んだことを研究に生かしていきたい考えだ。

森川 天喜 旅行・鉄道作家、ジャーナリスト

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もりかわ あき / Aki Morikawa

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)、『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)など

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