自治体が行う「外国人マーケティング」の盲点 爆買いするイタリア人、座禅をする中国人

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こんな事例もあります。台湾人向けのプロモーションをしていたある小さな町が、自分たちの「名産の食品」を使って、台湾人のインバウンドにつなげるという取り組みをしていました。

彼らが考えたのは、まず「台湾人は日本食が好き」ということでした。たしかに台湾にはラーメンや牛丼やコンビニおにぎりまで、あらゆる日本食が進出していますし、日本食は大人気です。また、その町にはまだ外国人旅行者はほとんど来ていないのですが、唯一、「台湾人が(年に数十名は)来ている」というデータもあったようです。

そういった状況をふまえて、プロモーションとして台湾のインフルエンサー(ブロガー)を呼んできて、実際に旅をしてもらい、自分たちの名産の食品をPRしたのです。

結果については、ゼロではないでしょうが、そんなに大きな反響はなかったようです。なんといっても台湾には日本の情報はあふれているのです。多額の予算をかけて広告やPRをしている地方や企業がある中で、一定の拡散力はあるとしても少人数のブロガーだけでそれと対抗するのはなかなか難しいことです。またそもそも、その名産の食品が、はたして台湾人の好みなのかも未知数です。好きな人もいるし、そうでない人もいる、ということだと思います。

「どんな旅人」に来てほしいか?

では「○○人ターゲティング」の限界を超えるにはどうすればいいでしょうか。それは、「どこの国」の人に来てほしいかという視点に加えて、もう1つ「どんな旅人」に来てほしいか?をもう少し丁寧に考えてみることです。

冒頭で書いたように、○○人といってもさまざまなわけですから、それよりも考えるべきは、「○○好きの人」といった、より細分化されたニーズではないでしょうか。

タンチョウの写真(写真提供:筆者)

たとえば、知床や根室など、北海道の道東エリアは日本有数のバードウォッチングの聖地です。冬にはタンチョウやオオワシがやってくるので、多くの旅行者がやってきます。北海道・道東エリアでは、インバウンドのターゲットの1つとして「バードウォッチ好き」という設定をしています。

道東に行ってみると、「バードウォッチ好き」にもいろいろなタイプがいることがわかります。たとえば鳥の写真を撮りにくるのが目的の人、たくさんの鳥を見てまわる人、鳥の鳴き声を求める人、鳥の背景にある自然をセットで楽しむ人などなど。

私が道東の阿寒国際ツルセンターに行った際には、台湾から家族旅行で来ている人たちが何組かいました。子どもたちにタンチョウを見せたくて、給餌の時間にあわせて、レンタカーでやってきたそうです。こちらはちょっとライトなバードウォッチ好きです。

シマフクロウを撮るカメラマンたちの写真(写真提供:筆者)

あるいは野付半島で多く見られるオオワシや、羅臼のシマフクロウなどを目的に、欧米のカメラマンやネイチャー系メデイアの人たちが多く訪れます。マイナス10度の極寒の中でカメラマンたちはその一瞬を待ち続けるのです。こちらはディープなバードウォッチ好きです。

実際に、北海道でインバウンドを担う北海道庁や北海道観光振興機構は、この数年、「バードウォッチ好き」をターゲットに設定してさまざまな取り組みをしています。北海道・道東エリアに「どの国」の人に来てほしいかということだけでなく、「どんな旅人」に来てほしいかを考えてみて、「バードウォッチ好きの台湾人」「バードウォッチ好きのイギリス人」とターゲットを置くことによって、やるべきことがより具体的になっているようです。

次ページ「バードウォッチ好き」をターゲットにさまざまな取り組み
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