第1に、「脱原発」そのものを叫んだところで、小泉純一郎元総理大臣の個人的な利得になるのかは甚だ疑問だということである。小泉純一郎元総理大臣の現在の肩書は、「国際公共政策センター顧問」だ。わが国を代表する企業のお歴々たちが幹部リストに居並ぶこのセンターは、日本経済が抱える目下の課題である「環境・エネルギー」「構造改革」「日本の震災復興」などを研究していることで知られている。そして日本経済が抱える問題といえば、何といっても「原発再稼働」そして「安価な電力供給への復帰」なのである。
「小泉脱原発宣言」と経産省の政策は、矛盾しない
その限りにおいて、「脱原発」と叫ぶこと自体は細かな点をいっさい捨象して考えるならば、明らかにこうした「親元の意向」に相反している。確かに小泉純一郎元総理大臣の地位にまでなれば、「何を言っても大丈夫」かもしれないが、それでも政界の一歩先は闇、なのである。表向きは「政界は引退した」となっているとはいえ、メディア受けする発言を調子よく発してよいというものではまったくないことは、かつて「劇場政治」で知られた小泉純一郎元総理大臣が、最もよく知っているはずなのである。
ちなみにこの関連で、今回の「小泉脱原発発言」が(特に米系の)石油利権の影響を受けてのものではないかと疑う向きがいる。だがこの点についてもそう考えるのには難がある。
なぜならば「親元」であるこのセンターの掲げる大きな目標のひとつが、「低炭素社会の実現」だからである。低炭素社会となれば「石油利権」は最も肩身が狭い。ところがそうしたセンターの意向に相矛盾する形で、真正面から低炭素化に反対するため小泉純一郎元総理大臣が吠え始めたと考えるのは、あまりにも単純すぎ、説得力に欠けるのだ。
第2に、今回の「小泉脱原発宣言」によって、安倍晋三政権は「迷惑千万」といったコメントを表向き繰り返している。しかしその実、経済産業省が主導する形で現在追求しているエネルギー政策の基本方針とこの「宣言」は、その延長線上で互いに重なり合うのである。
端的に言うと、この基本方針は次の3つの要素から成り立っている。
●短期的には「比較的稼働年数の短い、“若い”原子力発電所の再稼働」
●中期的には「原発の廃炉技術を世界トップレヴェルにし、世界に輸出する」
●長期的には「再生可能エネルギーのための蓄電池開発を加速させ、世界トップになる」
ここで大切なのは、「小泉脱原発宣言」が「脱」原発であって、「反」原発ではないという点である。つまり民主党政権のように「すべての原発を即時に止める」のではなく、徐々に脱して最後は止めようというのである。
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