「日本スゴイ番組」にドイツから見える違和感 日本好き外国人ばかり取り上げても仕方ない

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このように、改めて外からの目で日本を見ると、日本のルールを外国人に理解してもらうための工夫が少なすぎる、日本の魅力が伝えきれていない、と思いませんか?

たとえば旅館のシステム。これ自体がそもそも独特です。日本を紹介しているガイドブックでは、「リョカンには部屋にシャワールームがなく、共同オンセンがある」「タタミという床の上にマットを敷いて寝る」「フィットネスルームはない」とあります。日本は旅館を観光の目玉のひとつとして推していますが、外国人がみんな「リョカンがなんたるか」を知っているわけじゃありません。

ウォシュレットだって馴染みがない人がほとんどなのです。ボタンがやたらと並んでいても、最重要の「流す」がどれかがわからなかったりします。

外国人にちゃんと伝わっていないのはもったいない

日本にはユニークな生活習慣やシステムがあるのに、それを楽しむ方法が外国人にちゃんと伝わっていない。それはもったいないです。

話を「日本賞賛番組」に戻しましょう。

「日本のこういうところがすごい」「日本のこういうところが特別だ」と胸を張りたいのなら、それをちゃんと外国人に伝えるほうにもエネルギーを使えばいいのに、と思います。

旅館や温泉の楽しみ方、電車の乗り方などもちゃんとわかるように発信すれば、日本旅行がより現実的になり、日本旅行をしている自分を想像しやすくなるはずです。日本という国自体は知名度があるのだから、やりようによっては大きな効果が見込めると思うのです。

日本人による日本人目線の外国人観光客対策ではなく、外国人目線の観光化を意識していけば、外国人の需要に気づき、日本はもっと魅力的な観光地になれます。そのとき、いま日本で放送されている「日本スゴイ」という番組は、もっと説得力を持つことでしょう。

わたしはドイツで5年ほど暮らしてみて、日本にいるときには気づかなかった、日本のいいところがいろいろ見えてきました(もちろん逆のこともありますが)。

『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

「日本スゴイ」と国内だけで盛り上がっていてもしょうがない。かといって、美化されがちなドイツの働き方や教育制度をマネすればいいかというと、それもまたちがう。

「日本を見直そう」「日本のいいところを理解しよう」という考えは理解できます。自分の国に自信を持つことは悪いことではありません。でもせっかくなら、それが「世界に通用するものだったらいいのにな」と思うのです。

特殊な外国人ばかり取り上げて「日本大好き」と言わせて自己満足するのではなく、「外から日本はどう見えているのか」「どこに需要があるのか」を冷静に考えたほうが、日本にメリットがあるのではないでしょうか。

雨宮 紫苑 フリーライター

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あまみや しおん / Shion Amamiya

1991年、神奈川県生まれ。立教大学在学中にドイツで1年間の交換留学を経験。大学卒業後再び渡独。ワーキングホリデーを経て現地の大学へ入学し、現在フリーライターとして活動中。日独比較や外から見た日本など、海外在住者の視点で多数の記事を寄稿している。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

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