だが、日銀は、誘導目標からプラス・マイナス0.1%では国債取引が活発化しないことを、これまでの政策の「副作用」と捉えて、これまでの2倍程度に変動範囲を拡げることについて、「変動の余地を与えることで、国債取引が活発化し、国債市場の機能が改善することを狙っている」(黒田東彦総裁の記者会見より)と説明した。加えて、黒田総裁には、「金融機関の収益を改善するために金融政策を行うことは考えていない」とまで言われてしまった。
日銀は「副作用」に一定の配慮を見せた。政策を変えたのだから、しばらくはその効果を見る時間を取るだろう。しかし、日銀が認めた副作用は国債取引の不活発化であり、金融機関の収益環境の悪化ではなかった。
そもそも、今回の政策変更全体が「金融緩和の後退」と取られないようにするためには、長期金利上昇の可能性に十分見合う追加的な緩和措置の発表が必要になることが十分予想できたはずだが、今回それが、フォワード・ガイダンスの形で実現した。「長短金利の低位誘導を将来かなり長い期間にわたって続けます」と宣言されてしまったのだから、金融機関の収益改善のための長期金利上昇容認を願った人々は、むしろ騒いだことで損をしたのかも知れない。
日銀は、今回、「緩和の副作用」論をうまくいなしたと評価していいのではないだろうか。
預金金融機関のイバラの道
さて、仮に長期金利が0.2%になったところで、預金を受け入れている金融機関の収益改善効果は小さい。また、0.2%とはいえ、一時期マイナス利回りを見た心理的効果もあって、資産をプラス利回りで安全に運用したい主体にとってはそこそこに魅力的な利回りなので、「今後長期間低位」と予想される金利状況の下では、0.2%の長期金利水準は当面一時的に達成されても、長続きしないのではないかと推測する。
その場合、金融機関にあって、法人向け融資や住宅ローンのような貸出金利はほとんど上昇しないだろうし、有価証券運用の利回り上昇も見込めないだろう。
ただでさえ、ビジネスモデルが行き詰まりつつある銀行などの預金金融機関にとって、環境的な収益悪化要因が追加的に加わり、これが早急に解消する可能性が否定されたのだから、気の毒なことではある。
ところで、収益の上がらない金融機関は、言わばお腹を空かせたオオカミのようなものなので、顧客にとって危険な存在になる可能性がある。そして、その可能性はすでに相当程度現実のものになっている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら