医療費膨張を煽る「誤報」はこうして生まれる 医療費を決めるのは高齢化でなく政治的判断
2008年の社会保障国民会議でなされた2025年までの医療介護費用のシミュレーションは、2011年と2012年の2回にわたって改定された。そして今年の5月21日に、 初めて2040年の試算「2040 年を見据えた社会保障の将来見通し (議論の素材)」が示された。この「議論の素材」では、単価に乗じる伸び率は、前回の仮定が使用されており、その仮定とは次である。
医療の高度化等による伸び率(A)
+ 経済成長に応じた改定の要素(B)
- 薬・機器等に係る効率化要素(C)
(A)近年の動向等から年率1.9%程度と仮定
(B)当該年度の名目経済成長率の3分の1程度と仮定
(C)年率0.1%程度と仮定
賃金上昇率と物価上昇率の平均 + 0.7%程度
この方法においては、経済成長率や賃金、物価上昇率が仮定値から外れると、名目医療費の試算結果も変動するのは当たり前である。そうした経済前提の振れの影響を取り除くために、将来見通しは、対GDP(国内総生産)比で示された実質値でなければ意味をなさないのである。このことは、公的年金にも言えることは前回の「社会保障への不勉強が生み出す『誤報』の正体」で説明した。
政府資料では名目値はカッコ扱いだったが……
このような背景があるため、将来の社会保障給付費を議論する際に名目値で論じても「議論の素材」にはなりようがない。それゆえに、今回の試算においても、政府報告は、次のように、まず対GDP比を示し、( )内に名目値を載せているだけであった(私は名目値を表示しないほうがよいと思っている)。
「社会保障給付費の対GDP比は、2018年度の21.5%(名目額121.3兆円)から、2025年度に21.7~21.8%(同140.2~140.6兆円)となる。その後15年 間で2.1~2.2%ポイント上昇し、2040年度には23.8~24.0%(同188.2~190.0兆円)となる」
これだけの基礎知識を得た上で、一例として政府発表翌日の日本経済新聞朝刊1面トップ記事のヘッドラインを紹介すれば、「社会保障費、40年度6割増の190兆円、政府推計」。社説は、前回に紹介したように、「医療・年金の持続性に陰りみえる長期推計――社会保障給付費の長期推計は、このままだと医療・介護や年金を持続させられないおそれを映し出した」と論じていた。
毎日新聞も例に漏れず、18年から40年に公費負担の名目値が約30兆円増加することについて、「現在の消費税収は1%で3兆円程度。30兆円の税の負担額は単純計算すれば10%の規模に相当する」と、目を疑う記事。彼ら記者たちは、先述の基礎知識を持っていないことがわかる。
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