医療費膨張を煽る「誤報」はこうして生まれる 医療費を決めるのは高齢化でなく政治的判断

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この研究分野の古典とも言えるニューハウスの1977年論文には次の一文がある。「制度要因は内生的である:医療の制度要因――患者による医療費自己負担の在り方、医師や病院への医療費の支払方式、病院経営の分権・集権的性格等々――は、内生的に取り扱われるべきであり、各国は自国の所得水準に相応しい医療制度を、みずから発見するであろう」。

総医療費を決めるものは何か

「制度要因は内生的」というのは、総医療費を決めているのは医療の制度要因ではなく、総医療費がある一定の水準に収まるように医療の制度要因が決められているという話である。こうした何十年も前からわかっていた医療経済学上の常識が公の場で再確認されたのが、先の「医療費の将来見通しに関する検討会」であり、その報告書に、次が記されることになる。

「診療報酬改定率は政策的に決定されるものであるが、長期的には、タイムラグはあるものの、経済動向との間に結果として一定の関係が見られることから、医療費の伸び率を設定するにあたり(中略)将来見通しの前提となる診療報酬改定率は経済との関係を勘案して設定することも考えられる」

ここに、「タイムラグはあるものの」とあるのは、第3回「医療費の将来見通しに関する検討会」に出された次の資料に基づいている。日本の経験では、診療報酬改定時における過去の経済動向を踏まえつつ、改定率が決定されるため、経済の影響は4~5年遅れて診療報酬の改定に表れるのである(医療費と経済のタイムラグは他国でも観察されている)。

こうした「医療費の将来見通しに関する検討会」の報告書を反映させた初めての医療費の将来見通しは、2008年の社会保障国民会議における「医療・介護費用のシミュレーション」であり、そこでは、次の方式が用いられた。

医療費のみならず、介護費についても、将来見通しに「量×価格」の構造を取り入れたことにより、あるべき医療・介護提供体制の絵姿を先に描いて、それがどの程度の経済規模になるのか、そしてどの程度のマンパワーを必要とするのかを試算する道が拓かれるようになった。

このように、価格を分離して、医療や介護の提供体制という「量」サイドのあるべき姿を描き出す方法を準備し、提供体制のあるべき姿という、この国の大きな政策課題を集中的に議論できるようにしたのが、2006~2007年の「医療費の将来見通しに関する検討会」の報告書だったわけである。

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