「PL脳」から抜けられない日本企業の末路 必要なのは企業価値を最大化する思考だ

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事業の買収・売却、債権者への返済、あるいはR&D(研究開発)投資など、それぞれ社内の担当セクションは異なるかもしれない。事業の買収・売却は経営企画部、借入金返済は財務部、R&Dは各事業部で、という具合だ。その際、いずれも個別単位の判断ではなく、会社全体の視座からどれを優先していくか、ファイナンス思考での判断が重要な役割を担う。

企業価値の最大化と相反する可能性

──ステークホルダー・コミュニケーションも大きな構成側面の一つなのですね。

朝倉祐介(あさくら ゆうすけ)/1982年生まれ。騎手養成校、競走馬の育成業務を経て、東京大学法学部を卒業。マッキンゼー勤務の後、大学在学時に設立した企業に復帰。ミクシィへの売却に伴い同社社長。2017年シニフィアンを設立。複数の社外取締役、ファンドパートナーを兼務(撮影:吉濱篤志)

ファイナンス思考は、会社がどの「目的地」に対してどのように進むべきかを構想する考え方であり、将来を見通すための手段になる。その考え方をどうステークホルダーにきちんと説明するか。つまりステークホルダー・コミュニケーションも重要な要素なのだ。

これら4つの側面によって、ファイナンス思考は形成される。金融の専門家には矮小化していると言われかねないが、実務に携わるビジネスパーソンは、これぐらいの理解で十分だ。結局、会社の活動をお金の観点でとらえる思考なのだから。その観点で会社を見て、会社にとっていちばんいい判断をしていこうということだ。

──PL脳では何がずれてしまうのですか。

PL脳という問題視したような言い方をされると、PL自体を理解する必要がないと思うかもしれないが、決してそうではない。会社の状況や過去1年の業績を知る便利なツールなのは確かだ。ただし、結果として後からわかるものであり、見映えをよくする作為も可能で、企業価値を高めていくという経営の主目的が後手に回ることになるかもしれないのだ。

今ある事業だけでなく、5年後、10年後を展望して新製品・新分野開発に予算をかけていくべきだが、目先のPLを重視しだすと、とかくR&D予算は多少絞って当座の利益数字をもう少し大きくしたいといった誘惑に駆られてしまう。これではファイナンス思考の主目的である「会社の企業価値の最大化」と相反する可能性がある。

企業価値は、将来にわたってのキャッシュの総量を現在価値に割り戻して算定する。結果として将来に生み出すキャッシュが少なくなったら、企業価値は本来の大きさになりきれなかったことになる。

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