北朝鮮高官は、なぜ次々交通事故で死ぬのか 不自然なほど多くが事故に巻き込まれている
だが、結局は何も起こらなかった。少なくとも表向きは、単に訪韓することだけが目的だったかのように見えるほど、何事もなかった。
それから約1年後、金養建は死んだ。前任の金容淳と同じく、公式には交通事故死したことになっている。金養建の国葬を取り仕切り、遺体に最後の別れを告げたのは金正恩だった。また、金正恩は2016年に行われた第7回朝鮮労働党大会の演説でも、1980年の第6回大会以降に死去した重要人物の1人に金養建の名前を挙げた。
最高指導者なら公然と処刑するはず
このような幹部の事故死のうちのいくつかは、純然たる事故だった可能性もある。北朝鮮の道路の状態は劣悪で、プロの運転手であっても間違いは起こりうる。実際、今年4月にはバスの事故で中国人観光客32人が亡くなっている。
北朝鮮高官の交通事故が暗殺だったとしても、最高指導者が仕組んだ可能性は極めて低い。絶対権力を持つ金一族であれば、いつ何時でも法廷で死刑判決を下させ、大っぴらに処刑することができる。処刑するまでもない場合には、降格、国外追放、収監など、さまざまな手法を使って、いかようにでも粛清を加えることが可能だ。
つまり、交通事故死を装った謀殺は、最高権力者以外のエリートの間で起きている権力闘争の結果と考えるのが自然だ。
高官の事故死は北朝鮮政治の暗黒面を映し出すものであり、真相が明らかになることは決してないだろう。暗殺が含まれているのは間違いないが、その指令が文書として残されているとは考えにくい。暗殺にかかわった人物の中から事実を暴露しようとする人間が出てこないかぎり、秘密は永遠に保たれる。(敬称略)
(文:フィヨドール・テルティツキー)
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