たとえば、オフィスのトイレからトイレットペーパーを盗めば、刑法で「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と決められているので、窃盗罪にあたる。
「このようにやってはいけないと定めていることを構成要件といいます。刑法では構成要件に当たらないかぎりは、基本的には違法にはならないわけです」(由木氏)
それに対して、「民事責任」は、一言で言えば、被った損害をお金で賠償することで、不法行為や債務不履行がそれに当たる。不法行為は、故意、または過失によって損害を与えること。パワハラや横領などが典型だ。
債務不履行は契約で決められたことを守らないこと。「支払いを頼まれていたのに忘れていた」「納期を勘違いしていて納品が遅れた」……こんなうっかりミスでも損害賠償請求をされる可能性がある。
職業や立場によっても「やってはいけない」は違ってくる。典型は守秘義務だ。
「たとえば、弁護士は弁護士法で、税理士は税理士法で定められた守秘義務を負っていますが、サラリーマンの守秘義務を定めた法律はありません。ですが、サラリーマンであっても法的な守秘義務を負うケースはあります」(由木氏)
うっかりミスで損害賠償請求という事態も
“法律上の守秘義務”はないが、“法的な守秘義務”はある。何だかややこしいが、その拠り所となるのは就業規則だ。就業規則は、残業や休暇など労働条件に関する部分と、組織の秩序を守るために必要なルールから構成されている。ルールを守らなかった場合には、厳重注意や譴責(けんせき)、出勤停止、解雇といった罰則があることについても規定しているのが一般的だ。
サラリーマンは、入社する時に、会社に対して就業規則を守るという契約をしている。その中に、守秘義務があれば、当然、それも守らなければいけない。就業規則としての守秘義務を守ることが、法的な守秘義務にあたる。仮に違反すれば、会社の処罰の対象になるし、賠償請求されることもある。
守秘義務違反の多くは、刑事罰にはならない。しかし、そうなるときもある。
「インサイダー取引に関する情報漏洩は、一般サラリーマンでも刑事罰の対象になることもあります」(由木氏)
JPX(日本取引所グループ)のホームページによると、インサイダー取引とは、「上場会社の関係者等が、その職務や地位により知り得た、投資者の投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報を利用して、自社の株式等を売買する行為」と説明されている。そしてインサイダー取引をしていたと裁判で認定されれば、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が科せられる。
「上場会社の関係者」と聞くと、職位が上の人たちと考えるかもしれないが、一般社員はもちろん、アルバイトから取引先、従業員の家族、取材で訪れた記者などさまざまな人が含まれる。
「投資者の投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報」は、合併情報、新製品情報、不祥事、業績など、公表されれば株式等の価格に影響する情報のこと。上司や同僚などと、当たり前のように交わしている話、飲み会の席で聞いた話などが、インサイダー情報にあたることもある。
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