岸田氏、優柔不断の果てに出した「撤退宣言」 首相の「禅譲」に望み託すが、先は視界不良

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その中で、来夏の参院選に衆院選もぶつける「ダブル選」論も取りざたされるだけに、剛腕の二階幹事長の続投は動かないとみられている。さらに、来年には政権にとって国政選挙以上の重要課題となる、天皇陛下退位・新天皇即位とこれに伴う新元号決定という歴史的行事があり、今日まで司令塔を務めてきた菅官房長官の留任も欠かせないとされる。

ただし、首相の後見人を自認する麻生氏については、永田町でも「続投説」と「交代説」が交錯している。財務省による森友学園問題での公文書改ざんという、前代未聞の事件の責任問題が未だに宙に浮いたままだからだ。最高責任者の麻生氏が続投すれば、秋の臨時国会以降も野党側の厳しい追及は避けられず、首相が3選後の最優先課題とする、憲法改正のための国会発議の障害にもなりかねない。

その反面、今後の経済・財政運営のカギとなる2019年10月からの「消費税10%」については、3選後のこの10月に決断する必要があり、財務省当局はこれまで増税を主導してきた麻生氏の留任に期待を寄せる。

岸田派「冷遇」なら領袖として求心力低下も

一方、二階氏らの続投とも絡むのが、実力者の岸田氏や竹下亘総務会長の処遇だ。特に岸田氏の不出馬決断については、「ぎりぎりまで迷ったことに、首相は不満と不信感を持っている」(首相側近)との見方が少なくない。岸田氏は周辺に「派内の仲間に迷惑をかけたくないことも(不出馬決断の)理由だ」と漏らしたとされるが、「禅譲どころか人事で岸田派が冷遇される可能性もある」(無派閥有力議員)との指摘も出始めている。

岸田氏は「宏池会分裂につながった加藤紘一元幹事長による『加藤の乱』がトラウマとなっている」(岸田派ベテラン)とされるが、宏池会の過去を遡れば、総裁選不出馬とその後の人事が絡んだ前尾繁三郎元衆院議長の「宏池会会長交代事件」も無視できない歴史だ。派閥創設者の池田勇人元首相の死後に宏池会を受け継いだ前尾氏が、1970年の佐藤栄作元首相による佐藤4選の総裁選で、「人事での厚遇」の“密約”を理由に不出馬を決めたが、結果的に佐藤氏に約束を反故にされ、派内の反発を買って宏池会会長の座を大平正芳元首相に譲らざるを得なかった、という過去だ。

もちろん、「半世紀近く前とは派内の状況が異なり、岸田氏の有力な後継者も不在」(岸田派幹部)ではあるが、人事での首相の対応次第では、岸田氏の派閥領袖としての求心力が一気に低下するリスクを抱えたことにもなる。

岸田氏は7月29日に61歳の誕生日を迎える。本人は「日曜日だから静かに誕生日を迎える」と淡々としているとされるが、派内の若手からは「誕生祝いに合わせて総裁選出馬で気勢を挙げたかったのに」との“恨み節”も聞こえてくる。

総裁選がこれまでの想定通り、9月7日告示・20日投票となれば、その直後から党・内閣人事をめぐる党内の駆け引きが始まる。岸田氏の政調会長留任や岸田派内の入閣待望組からの起用について、首相がどのような判断を下すのか。岸田氏にとっては9月下旬の「安倍3選」後の人事が、「将来の“ポスト安倍”での勝負を左右する重大な試練の場」(岸田派幹部)となるのは間違いなさそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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