FRBは新興国通貨を本当に追い詰める段階に トランプの貿易戦争以上にリスクが高い

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粛々と利上げを続けるFRB。ついにトランプ大統領が不満を述べ始めた(写真:ロイター/Jim Young)

為替相場では「久しぶり」と言うべきか、「ついに」と言うべきか。ドナルド・トランプ米大統領がFRB(連邦準備制度理事会)の正常化プロセス並びにその結果としての金利高や通貨高に対して不満を述べ始め、ドル全面安の地合いが強まっている。選挙期間中の同大統領の言動を踏まえれば何ら不思議ではなく、そもそも保護主義と通貨安の親和性は非常に高いものである。この点は3カ月前の東洋経済オンライン記事『日米貿易交渉入りで円高が進むのは必然だ』でも強調した。

本当にトランプ政権が基軸通貨国としての「伝家の宝刀」を抜いてきたのだとすれば、為替市場を筆頭として金融市場にとって極めて大きな材料となる。特に予想の難しい為替相場の世界において「米国の通貨政策の方向感は絶対である」というのは唯一無二の鉄則であり、それがわかっているからこそ歴代大統領はもちろん財務長官もそれとなく相場誘導をすることはあっても、はっきりとドル高について「米国にとって不利」などと明言することはまれだった(なかったとは言わないが)。

7月下旬に差し掛かったところでトランプ大統領はFRBによる利上げについて「不満だ」、「これまでの努力すべてを損なう」などと矢継ぎ早に"口撃"し始めている。これまでのパターンに照らせば、すぐにスティーブン・ムニューシン米財務長官が出てきて強いドルへの支持を訴えたりするなどのフォローが期待されたが、今回は同財務長官までもが特に中国を挙げて「通貨安が不公平な利益をもたらすことは疑う余地がない」とドル高是正ムードをダメ押しするような言動を行っている。

本稿執筆時点ではまだ同発言から1週間程度の話なので深掘りは避けるが、貿易戦争の宿敵である中国が露骨に通貨安誘導に打って出たことで、ついに基軸通貨国としての特権を行使する決心をした可能性がある。

「新興国市場の混乱」は起こるべくして起こる

もとより貿易戦争が世界経済の下押しリスクであることは言うまでもなく、上述したようなトランプ大統領の通貨安誘導もその一環として想定されることを筆者も指摘してきた。ただ、貿易戦争の進捗を脇に置いたとしてもFRBが金融環境を引き締めている以上、国際経済・金融情勢において「相対的にリスクの高いエリア」から資金は抜けていくと考えるのが自然である。世界の資本コストを規定するFF金利がもはや低金利と呼ぶには難しい2%台に入ってきている以上、「これまで投資可能だったものが投資不可能になる」といった現象は出てくる。

この点、まず不安視されるのが新興国市場からの資金流出であり、今年5月初旬、アルゼンチンやトルコで実際に問題となったのは記憶に新しい。昨年6月、デフォルト常連国のアルゼンチンが100年国債(投資不適格のシングルB格付け)で起債し、計画の3倍以上もの需要(30億ドル弱に対して90億ドル超)を集めることができたのは「カネが余っていたから」以外の何物でもない。各種データから示されるように、2017年を通じて新興国へ流入した資本の規模は非常に大きいものであり、今後、FRBの政策運営が引き締めに傾斜するに伴ってこの逆流に備えるのは当然の話と言える。

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