後継者不在の会社は売却が廃業より得なワケ 事業はもちろん雇用や取引も次代に残せる

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しかし、廃業するのは、意外と大変です。「廃業届」のような書類を1枚出せば、それで終わりという簡単なものではありません。会社の状況や事業内容によって異なる点はありますが、たとえば製造業の株式会社が廃業をする場合、ざっと挙げるだけでも以下のような手続きが必要になります。

・株主総会を開催して、解散決議
・廃業の登記
・取引先や顧客への廃業の通告
・従業員への解雇通知、退職金の支払い、再就職先の斡旋
・金融機関からの借入金の繰り上げ返済
・工場等の建物の取り壊しと、更地にした土地の売却による現金化
・機械設備等の廃棄、または売却による現金化

これらの非常に多くの手続きを経て、会社の資産を現金化し、株主に分配してから、ようやく廃業できます。思っていたよりもやらないといけないことが多く、時間も手間もかなりかかる面倒な作業です。しかも、社長には期待するほどの現金が手元に残らないケースも多いのが現実です。

銀行からの借入金がある場合、廃業すれば返さなくてもいいと思っている社長がまれにいますが、当然ながら返済義務は残り続けます。中小企業の場合、会社の借り入れにはたいてい社長の個人保証が付いていますので、廃業時に借入金を完済できない場合は、社長個人が廃業後も返済をし続けなければなりません。

社長に借入金を返せるだけの個人資産があればいいのですが、現金がなければ、廃業によって仕事を失った状態ですから、自宅などを売却しておカネを捻出しなければいけないということにもなりかねません。

社長はあらゆる選択肢を考えて、やむなく廃業を選ぶのですから、最終的にそのような決断をすることは仕方のないことかもしれません。しかし、会社にかかわる人がみな幸せになれるM&A(企業の合併・買収)を活用した第三者への承継、つまり「会社を売る」という選択肢があることは、意外と世の中に浸透していません。

中小企業の第三者への事業承継、いわゆるM&Aをお手伝いしてくれる専門家の数も少しずつ増えてきました。また、私が運営するサービスのように、インターネットを活用した事業承継・M&Aマーケットもここ数年で普及してきており、個人事業のような法人化されていない小規模事業でも、M&Aによる第三者承継ができるようになりました。

会社を売る5つのメリット

たとえば、廃業と売却を比較した場合、売却にはどのようなメリットがあるのでしょうか? 会社を売却することのメリットは、主に次の5つです。

① 従業員の雇用を継続することができる
② お客様や仕入先などとの取引を継続することができる
③ 技術やノウハウを次世代に引き継ぐことができる
④ 個人保証を解除することができる
⑤ 廃業よりも多くのおカネを得ることができる
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