後継者不在の会社は売却が廃業より得なワケ 事業はもちろん雇用や取引も次代に残せる

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たとえば、教育関係者に絶大な人気を誇っていたチョークの老舗「羽衣チョーク」や痛くない注射針で有名な岡野工業など世界トップクラスの技術を誇る会社の廃業がニュースに取り上げられることも少なくありません。しかし、廃業するのではなく、会社を売却すれば、新たな経営者によって、その技術やノウハウが継承されていくことになります。多くの顧客が支持している会社の技術やノウハウを廃業によって途絶えさせるのではなく、M&Aによって第三者に承継することで次の世代にも貢献できます。

買い手や金融機関と交渉することは可能

④ 個人保証を解除できる

4つ目は、金融機関からの借り入れに付いている社長個人の保証を外せる可能性があるということです。廃業する会社に金融機関からの借り入れが残っていて社長が個人保証している場合、会社が廃業した後は社長個人がその借り入れを返す義務を負うことになります。

返す現金がない場合は、私財を投げ打ってでも返さなければなりません。どうしても返せない場合、自己破産するしかありません。これに対して、会社を売却する場合は、売却代金による返済や買い手との債務引き継ぎの交渉によって、個人保証を外せる可能性を高められます。

すべてのケースで個人保証の解除ができるわけではありませんが、法人としての借り入れは残したまま、売却時に個人保証と自宅などの担保を解除し、新たな社長との間で契約し直すよう買い手や金融機関と交渉することは可能です。また別の方法としては、売却代金を活用して借り入れをいったん全額返済してしまい、個人保証や担保をきれいにしてしまったうえで、再度、同じ金融機関もしくは別の金融機関から借り入れ直す方法もあります。

この場合、新しい借り入れに個人保証や担保が必要となるかどうかは、新しい社長が金融機関と交渉することになります。個人保証や個人資産の担保を解除できるかどうかは、中小企業の社長にとって非常に大きな点です。会社の売却を進める際には、買い手や金融機関と十分に交渉をして売却の条件から漏れてしまうようなことがないようにしてください。

⑤ 廃業よりも多くのおカネを得られる

5つ目は、廃業するより手元に残るおカネ(手残り金額)が多くなる可能性があるということです。

通常、会社を売却するときは、会社が保有する資産を帳簿上の価格(資産簿価)で譲渡するのではなく、その事業から将来継続的に生まれる利益を会社の価値として譲渡価格に上乗せします。この上乗せ分を「のれん」といいます。会社が生み出す利益額が大きく、安定している場合、この「のれん」の価値は大きく評価され、譲渡金額が高くなります。

つまり、この「のれん」の分だけ、社長の手元に入るおカネも増えることになります。

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