池上彰が説く「天皇と皇室について知る意味」 日本という国のあり方を考えることにもなる

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拙著『池上彰の「天皇とは何ですか?」』でも触れていますが、私自身が「そういうことだったのか」と深く納得したのは、東日本大震災の直後、2011年3月16日に宮内庁が発表したビデオメッセージ「東北地方太平洋沖地震に関する天皇陛下のおことば」を見たときです。その一節を抜き出してみましょう。

「現在、国を挙げての救援活動が進められていますが、厳しい寒さの中で、多くの人々が、食糧、飲料水、燃料などの不足により、極めて苦しい避難生活を余儀なくされています。その速やかな救済のために全力を挙げることにより、被災者の状況が少しでも好転し、人々の復興への希望につながっていくことを心から願わずにはいられません。そして、何にも増して、この大災害を生き抜き、被災者としての自らを励ましつつ、これからの日々を生きようとしている人々の雄々しさに深く胸を打たれています」

このビデオメッセージは、天皇陛下ご本人の強いご希望で出されたといいます。ここで語られているように、東日本大震災直後は、日本中の人々が衝撃を受け、大勢の人が嘆き悲しんでいました。

そういう状況の真っ只中で、天皇陛下が国民に「復興への希望」を呼びかけられている。苦難をみんなで分かち合い、希望を捨てずに復興の道のりを歩もうと語られている。それを見て、「ああ、これが天皇の役割なんだ。象徴ということなんだ」ということが直感的にわかりました。

日本がどういう国か考えること

でも、私たちは天皇や皇室について、まだまだ知らないことが数多くあります。憲法の中で、天皇のお務めはどのように規定されているのか。海外の王室と比べて、どこが似ていてどこが違うのか。さまざまな時代で、天皇はどういう存在だったのか。

このように、天皇や皇室について知ることは、憲法や政治のあり方、日本の国柄や歴史を考えることでもあるのです。

1989年1月7日に昭和天皇が亡くなり、1989年1月9日に今上(きんじょう)天皇が即位されたとき、お言葉を述べられました。それは次のように始まります。

「大行(たいこう)天皇の崩御は、誠に哀痛の極みでありますが、日本国憲法及び皇室典範(こうしつてんぱん)の定めるところにより、ここに、皇位を継承しました」

私は、「日本国憲法及び皇室典範の定めるところにより」という一節を聞いて、なぜか衝撃を受けました。当たり前といえば当たり前ですが、びっくりしたのです。

天皇陛下自身が、現在の日本国憲法に基づいて、天皇になったことを宣言している。憲法に対して、大変自覚的であることが伝わってきました。

『池上彰の「天皇とは何ですか?」』(PHP研究所)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

それ以降も、ことあるごとに、天皇陛下は日本国憲法について繰り返し語られています。つまり、天皇陛下ご自身が、憲法の下(もと)での天皇のあり方をずっと考え続けてこられた。考え続けられただけでなく、被災地のご訪問や慰霊の旅などを通じて、実践もされてきたのです。

2019年4月30日に今上天皇は退位され、平成の時代が終わり、新しい天皇が即位されます。また、政治の世界では、憲法改正についての議論も行われています。

こうしたことをきっかけに、私たちもあらためて、天皇や皇室のあり方を考える必要があるでしょう。天皇や皇室について考えることは、私たちが暮らしている日本という国がどういう国なのかということを考えることにほかなりません。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶応義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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