福岡発「無料タクシー」の意外と堅実な稼ぎ方 23歳、クリエイター社長の夢に資金も集まる

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すでに広告の依頼も来ており、数万円単位で依頼をする地元の飲食店から、高額の広告費を出す大企業までさまざま。依頼内容に合わせ、映像制作のノウハウを駆使して広告を作っていく。ただ見て終わりになるCMだけではなく、たとえば広告画面を触ると、情報がスマートフォンに飛び、その場で商品が買えたり、ユーザーの好きそうなイベント情報があれば、その場でチケットを購入し、タクシーの行き先を変えたりすることも可能だという。

無料タクシーのサービスに既存のタクシー事業者からの反発はないのか。意外にもサービスをリリースしたとき、個人タクシードライバーなどから問い合わせが殺到したという。

待遇の悪さに辟易するドライバーにも福音か

「労働力を業界から奪おうとしているわけではないが、タクシー業界の待遇の悪さを実感せざるをえない」(吉田氏)。ある大手タクシー会社社長は、「あのビジネスモデルは面白い。参考にできるところは学びたい」と話しており、実際にコンタクトを取るタクシー会社も出ている。タクシーというインフラを使って広告ビジネスを収益化できれば、まったく新しい市場を生み出せる、これがノモックの狙いだ。

それにしても、このビジネスモデルは本当に成り立つのか。ノモックの無料タクシーでは、広告収入だけでドライバーの人件費などをまかなわなければならない。吉田氏の試算では、「業界平均よりも多い収入をドライバーに払える」というが、車両代や燃料費、維持費のほか、システム開発費もかかることを考えると、収益化は容易ではないだろう。

また人材採用も課題だ。現在は社員4名と、海外にアウトソーシングしている20人のエンジニアがいるが、集客のための営業、システム運用、広告制作、タクシー業務と、今後多くの人材が必要になってくるためだ。そうこうするうちに、調達した5000万円はすぐになくなってしまうだろう。新たな資金調達については、エンジェル投資家やベンチャーキャピタル、IT企業などと対話を進めており、中国から投資したいという話も出ているという。

もう一つ、大きな課題として、規制への対応がある。2015年、ウーバーが福岡市で行ったライドシェアの実証実験で、乗客からは運賃をもらっていなかったが、ドライバーにデータ提供料として報酬を支払っていたことで「白タク業務の疑いがある」として、国土交通省の九州運輸局から中止指導を受けたことがある。

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過去の事例からもわかるように、輸送業務は規制による参入障壁がある。国交省の担当者は、「報道ベースでしか運用形態を把握しておらず、どこかのタイミングで(ノモックに)聞き取りをするつもり。現在の見解は示せない」とコメントしている。ノモック側は、地元福岡のタクシー会社の元副社長・宇高良一氏を顧問に迎え、対策を考えているという。

サービス開始までに乗り越えなければならない課題は多いが、ノモックは2019年3月から、福岡で8台の運営を実験的に開始する予定だ。事前登録をした利用者が繰り返し乗ることで、タクシーでの移動と購買の関係性をデータとして集める。「“無料”で話題を呼んでおり、希望者全員を乗せられないかもしれない」(吉田社長)と自信を見せる。前代未聞の「無料タクシー」。その船出の準備が着々と進んでいる。

森川 郁子 東洋経済 記者

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もりかわ いくこ / Ikuko Morikawa

自動車・部品メーカー担当。慶応義塾大学法学部在学中、メキシコ国立自治大学に留学。2017年、東洋経済新報社入社。趣味はドライブと都内の芝生探し、休日は鈍行列車の旅に出ている。

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