保育園無償化が効果ゼロに終わる3つの理由 「無償化」でなく「質向上」に資金を投入すべき

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保育所の第三者評価制度や幼稚園の学校評価制度はあるが、いわゆる経営や監査ではなく、幼児教育の内容やプロセスの質を問うた評価制度にはなっていない。つまり、無償化の資金投入だけを続けても、質が高まる保証のないままに投入することになる。

老人福祉などの制度でも評価制度は導入されている。モニタリングなしに認可外保育所なども含めた幅広に対象範囲を広げることが、制度的にも不十分であることは目に見えている。

質向上に資金を投入すべき

無償化はすでに閣議決定されている。

それでもできることがあるとしたら、保育者の研修や幼児教育の質向上のための評価制度を導入することだろう。教育無償化などに使われる予算2兆円の5%でも10%でもいいから、質向上に必要な制度のために資金を充てることである。そして、政策効果を検証する調査研究を同時に行うべきである。

少子化に向かう日本において、累積負債世界一のわが国に必要なのは、さらなる負債を増やして、現在の子どもたちが成人になったときにその重荷を背負わせることではないはずである。

今ここでより良質の幼児教育を行えるような制度を整え、それと無償化をセットにしていかなければならない。認可外施設が無償化になることの有無の議論ではなく、認可外施設の数を減らし、認可施設の数を増大していけるようにするべきである。

さらに、待機児童の解消が先か幼児教育の無償化が先か、という優先順位の議論ではなく、子どもたちの人材育成のための政策を、防衛政策に多額のお金を投じるよりも優先していくような議論が必要なのである。

民間保育所、私立幼稚園の多いわが国であるからこそ、そこでの独自の乳幼児教育の質の向上政策に向けて公的資金を賢く投入すべきなのではないだろうか。

秋田 喜代美 東京大学大学院教授

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あきた きよみ / Kiyomi Akita

東京大学大学院教育学研究科教授。同附属発達保育実践政策学センターセンター長。博士(教育学)。専門は保育学、教育心理学、授業研究。長年、園内研修にかかわり、保育の質の向上や保育者の専門性・実践知に関する研究を行っている。『子どもたちからの贈り物――レッジョ・エミリアの哲学に基づく保育実践』(共編著、萌文書林、2018年)、『保育の心意気』(ひかりのくに、2017年)、『育み支え合う 保育リーダーシップ』(監訳・解説、明石書店、2017年)、『あらゆる学問は保育につながる』(監修、東京大学出版会、2016年)など著書多数。

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