安倍首相「単独リーダーシップ」に潜む危うさ 「トランプ抜き」で拉致問題は解決できるのか

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さて、安倍首相の「外交」力については、本連載「4月の安倍訪米は『中止』が得策かもしれない」で引用した、田中真紀子元外相の発言が重みをもってくる。

3月中旬の日本外国特派員協会でのスピーチで、田中氏は「トランプ大統領に余計なことを述べに行くよりも、森友問題や財政問題など、やるべきことは山ほどある」と、「真紀子節」を炸裂させた。

「安倍さんがトランプ大統領に会いに行くのは、森友問題から逃げたいだけでしょ。安倍さんの政治家としての値打ちはその程度にすぎない」という、「真紀子節」の予測は、「4月訪米」を「6月訪米」に置き直すと、その正しさが恐ろしいほどに裏付けられる。

トランプ大統領の「ネゴシエーション」力については、ウォール街が高く評価する「ディールの天才」という見識、実力が、米メディアでも認められ始めており、今や、国家の至宝との評価も出てきている。それは、日本のメディアが幅広く報じてきている「ドナルドとシンゾーの友情」とは別の価値であり、トランプ大統領の「ネゴシエーション」力に対しては、友人としての安倍首相といえども、より深い尊敬と畏敬の念をもって、接するべきではないか。

安倍首相は拉致問題解決に100%正面から取り組め

7月5日、トランプ大統領はモンタナ州で、巨大な聴衆を前にして演説し、「オバマ氏は、北朝鮮と戦争に近づいていた」と明言した。北朝鮮が、オバマ前大統領を嫌っていた状況を客観的に述べたのである。

そのオバマ前大統領と安倍首相は、3月下旬に日本で会っている。拉致問題では、何もしなかっただけでなく、北朝鮮との戦争に近づいていたオバマ氏との会談は、その時点で、拉致問題解決をめぐる、トランプ大統領の対北朝鮮「ネゴシエーション」の道を限定的にせよ、混迷させたことになる。

さらに、4月中旬のフロリダ州での日米首脳会談では、「拉致問題を米朝会談で取り上げる」というトランプ大統領の言を得ながら、さらに日本のメディアを巻き込んで、その後、何度も念押しただけでなく、6月7日のホワイトハウスでの日米記者会見で、安倍首相本人による金正恩委員長との日朝首脳会談で解決する決意を、日米を含む世界のメディアに対して、強調して見せたのだ。

実は、安倍首相のメディア向け発言のさまざまな言動のリップルエフェクト(波及効果)で、トランプ大統領は、何度となく「ネゴシエーション」のパターンを調整している。その事実に安倍首相は気がついていない。

トランプ大統領の対北朝鮮「ネゴシエーション」は、米国内向けではなく、100%金正恩氏に向けられてきている。これに対して、安倍首相の「ネゴシエーション」は、北朝鮮をつねに向いているのではなく、より大きく日本社会に向けられている。つまり、安倍首相の「外交」は、必ずしも「ネゴシエーション」ではなく、「トランプ大統領の具体的な問題解決型のネゴシエーション」とは、次元を大きく異にしている。

安倍首相は、森友問題や財政問題などの国内問題を、国際問題にすり替える「外交」手法を国民に仕向けるのをやめて、多くの日本人が関心を寄せている拉致問題解決に、安倍首相が100%正面から真剣に取り組めば、日本の国内状況も対国際関係も、よりよい展望が開けてくるのではあるまいか。

湯浅 卓 米国弁護士

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ゆあさ たかし / Takashi Yuasa

米国弁護士(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)の資格を持つ。東大法学部卒業後、UCLA、コロンビア、ハーバードの各ロースクールに学ぶ。ロックフェラーセンターの三菱地所への売却案件(1989年)では、ロックフェラーグループのアドバイザーの中軸として活躍した。映画評論家、学術分野での寄付普及などでも活躍。桃山学院大学客員教授。

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