なぜ人は「自分のにおい」に気づけないのか 体臭と記憶にはきってもきれない関係がある

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においの判断が社会的である一例として、赤ちゃんは、便のにおいを不快には感じていない。嗅覚野に、「便とは汚く、臭いものだ」という学習データがまだ保管されていないから、便のにおいを嫌だとは感じないのだ。

しかし、成長の過程で、便を臭いものと周りの人たちが扱うことを学習していくことで、「便臭=悪臭」と脳が認識し、不快と感じるようになるのだ。

ほかにも、くさやに代表されるような強烈なにおいを発する発酵食品であっても、そのコミュニティで日常食として食べて育てば、臭いとは感じなくなる。納豆やみそだって、海外の人にとってはなじみがなく、臭いと感じることが多い。

同じにおい分子がもたらす信号でも、個々人の経験・体験によって、そのにおいについての認識は変わるのだ。

においは、大脳辺縁系にとっては本能的だが、大脳新皮質にとっては社会的なものと言える。

自分のにおいには気づけない理由

においは、このように個人的に認識される感覚だが、脳の認識以外にも、個人差を生む嗅覚の特徴がある。

「順応」と呼ばれる、慣れの現象だ。

たとえば、つねに強烈な口臭がするのに、なぜか本人は気づいていないとか、他人の家に入るとその家特有のにおいを感じるのに、住人は気づいていないとか、外国人は感じる日本特有のにおいが、日本人にはわからない……などである。

人は、日常的にかいでいるにおいには順応してしまい、感じにくくなってしまう。嗅覚以外の感覚でも順応は起こすが、特に嗅覚は順応しやすいとされている。それは、危険を察知するためだ。

嗅覚は、そもそも野生動物が敵を察知し、危険を回避するために備わっている。人間にも、機能が残っている。

日常的に感じるにおいは、危険とは言えない。危険ではないにおいへの反応を鈍くする一方で、それ以外のにおいへの反応を鋭くしている。急に危険なにおいがしたときに、即座に反応できるようにするためだ。そうでなければ、命の危険が増してしまう。

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この効果は、野生動物では役に立つが、人の場合には、困ることがある。自分自身が、強烈な口臭や体臭を放っていても、それが持続的であるほど、本人には自覚しづらくなってしまう点だ。

口が乾いたときや、何かを食べたときなどには、誰にでも口臭が出現する。時に出現する口臭は、持続的ではないので自分でも気づきやすい。普段口臭がほとんどない人ほど、たまの口臭を理由に「自分は口が臭い」と思っていることが多い。

これらは、後に述べるが生理的な口臭の範囲であり、病的ではないことがほとんどだ。

逆に、慢性的であれば、病的な口臭の可能性があるが、それが持続的であればあるほど、自分では順応してしまい、感じられないのだ。周囲は、大変な我慢を強いられているかもしれない。

人間、何もケアしなければ、年齢と共に口臭も体臭も強くなる。特に、においは、体内の不健康を反映して悪化するので、生活習慣の乱れが加わればなおさらだ。

ミドルエイジ以上であれば、自分の健康と他者への配慮を考えて、自分から発するにおいを意識的に改善したいものだ。

桐村 里紗 医師

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きりむら りさ / Risa Kirimura

1980年岡山県生まれ。2004年愛媛大学医学部医学科卒。内科医・認定産業医。治療よりも予防を重視し、最新の分子整合栄養医学や生命科学、常在細菌学、意識科学、物理学などをもとに、執筆、Webメディア、講演活動などで、新しい時代のライフスタイルとヘルスケア情報を発信。 監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。著書に、『「美女のステージ」に立ち続けたければ、その思い込みを捨てなさい』(光文社)など。

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