なぜ人は「自分のにおい」に気づけないのか 体臭と記憶にはきってもきれない関係がある
また、人は本能的に、自分とは違うにおいがする異性に惹(ひ)かれるもの。家族のように近しくなると、においも同じになってしまうが、あえて違うにおいをまとうことで、相手にとっては刺激になる。新しいにおいは、新しい風をもたらすことができる。
においは、パートナーを選ぶ際にかなり重要なファクターだ。「においフェチ」を自負する男女は、結構多い。好きになる異性のにおいは、たいてい好みのにおいだし、逆に、においが好きだから、その異性を好きになることもある。
また、においが嫌いだと、恋愛対象外になってしまうこともある。なぜか。
それは、においが、遺伝子レベルで、最適な子孫を繁栄させるための重要な判断材料になっているからだ。詳しく言うと、HLAタイプという、ヒト白血球型抗原の遺伝子タイプが、自分とは遠く、かけ離れているほど、かけ合わさったときに多様性が高くなり、強くたくましい子孫を残すことができる(引用文献 Body odour preferences in men and women. C Wedekind et al. Proc Biol Sci.〔1997.10.22〕)。
遺伝子タイプの違いは、体臭として反映される。自分の遺伝子タイプに合うにおいは、自分とはかけ離れたにおいになる。それを、本能的に「好みのにおい」と感じているのだ。
逆に、自分の遺伝子タイプと似通ったにおいは、「嫌なにおい」と感じてしまうようだ。遺伝子タイプが合えば、たとえ汗臭かろうが、その汗を「良いにおい」と感じて、女性はうっとりするはずだ。欲望だけでなく、安心感や安定感をもたらし、お互いのにおいに包まれたいと感じる。においをかぎ合うことが、自然なスキンシップにもなるだろう。
老化や生活習慣の悪化に伴う体臭は別として、自分本来の体臭は、自分に合う異性を惹きつける武器になる。だから、無臭を目指す必要はない。堂々と身にまといたいものだ。
恋人はその限りではないが、子孫を残すことを望む夫婦の場合には、においの相性も良いことを願う。
においの判断の社会性――学習効果で好みも変わる
においの信号は、大脳辺縁系から、さらに高度で理性的で社会的な脳の領域である大脳新皮質に送られる。側頭葉に嗅覚野というにおいの中枢がある。ここに来てようやく、そのにおいが何であるか、特定されることになる。
嗅覚野にたどり着いたにおい信号は、保管されている経験・体験に基づくにおいについての学習データと照合される。生まれ育った社会や、家庭の環境、教育、その国の文化や一般常識、さらに体調の良しあしなどの、生まれてからの経験で得た学習による後天的なデータだ。
それが、大脳辺縁系の喜怒哀楽などの情動、快・不快、海馬にまつわる記憶などと合わさって、においが総合的に判断されるのだ。
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