「外国人労働者の受け入れ拡大」をどう読むか 安倍政権の発想は「人手不足への処方箋」

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一方で確かに、機械化の流れが勢いづいており、技術革新が人口減少のデメリットを補完しやすくなっているのは間違いない。この点で、現代の日本では機械と人間が競合せず、機械化を受け入れやすい土壌があるのは「不幸中の幸い」だろう。だが、それはあくまで補完措置にすぎず、人口の減少分をすべて補うほどの効果は期待できないと思われる。

そうなると日本が成長を継続していくには「海外から人口を受け入れる」か「放置する」かしか道はない。後者は人口減を甘んじて受け入れたうえで成長に背を向けることになる。「それで結構」という立場もあろうが多数派ではあるまい。

賃金の上昇を抑制することになるのか

もちろん、総論で賛成できても各論として「外国人の単純労働受け入れが冴えない賃金情勢をさらに停滞させるのではないか」という現実的な不安はある。人手不足がこれだけ騒がれても賃金が満足に上がっていないのだから、これはもっともな不安だ。

しかし、日本人と外国人の労働力が完全に代替的とも思えない。総労働者の6割を占める正規雇用の賃金が外国人労働者の流入に明らかに反応するものだろうか。少なくとも、今の日本では「安くて若い労働力」が間違いなく不足しており、(外国人に比べれば)相対的に高価な日本の若年層に付加価値の低い雇用を割り当てる余裕はないはずである。だからこそ海外へ生産移管したり、不本意にも倒産へ追い込まれたりする企業が出てきている。

結果的に「安価で単純な労働」は外国人が、「高価で複雑な労働」は日本人が担うようになれば、低付加価値の労働に従事してきた日本の若い労働力が高付加価値の労働に従事する余地が生まれる。そうなれば、今までと同じ労働投入でより高い付加価値が生み出せるようになる。これは日本全体の生産性が上昇する話になる。定義上 、生産性の上昇は実質賃金の上昇をもたらす。今回の政策に期待される経済的効果を単純化すると、このような想定になろう。

財・サービスの貿易に置き換えればわかりやすいかもしれない。国内の生産能力が供給制約に直面した場合、必要な部材(モノ)を追加的に輸入することで対応するのは普通の話だ。今回は部材に限らず労働力(ヒト)も輸入する段階に入ったということではないか。

もちろん、外国人受け入れで「安価で単純な労働」がさらに安く済むようになり、企業だけが得をする(日本の労働者は職を奪われておしまい)という懸念もないわけではない。しかし、まず今の日本に必要なのは「人手不足だから日本を脱出する」という企業の動きを食い止めることである。出ていった企業は簡単には戻ってこない。

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