霞が関エリート官僚の過酷で報われない世界 不人気、不遇、不祥事の三重苦で退職者も続出

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追い打ちをかけるのが不祥事だ。世間を騒がすモリカケ(森友学園・加計学園問題)に加え、セクハラや複数の省庁での文書隠蔽などで世間のイメージは悪化した。ある省庁の若手官僚は、「霞が関を志望する女性の大学生から、『セクハラって多いんですか?』と質問された。本当にショックだった」と振り返る。

不祥事の裏側で省庁間のパワーバランスも大きく変化している。かつて「われら富士山、ほかは並びの山」と他省庁を見下していた最強官庁、財務省の凋落が止まらない。直近ではセクハラ問題で財務官僚の頂点に立つ事務次官が辞任し、空席になるという異常事態を招いた。

一方、安倍晋三政権下で「わが世の春」を謳歌するのが、官邸の中枢に人を送り込み政権の知恵袋となっている経済産業省だ。政治主導を進める安倍首相の下、官邸と近い経産省では、「今は政治の理解も得やすく、政策を実現しやすい」(若手官僚)。財務省の劣化をよそに勢いづく経産省であるものの、「年次によっては半分辞めている。人材の質も落ち、若手が育っていない」(別の若手官僚)という課題を抱える。

「“ヒラメ官僚”が増えた」

安倍政権は官邸主導を進め、内閣人事局を通して各省庁の幹部人事権を掌握する。「官邸のほうばかり向く“ヒラメ官僚”が増えた」(総務省幹部)と嘆く声は少なくない。

かつてとは違い優秀な人材が集まらず、入ってきても若くして辞めていく負のスパイラル。「周りで人がどんどん辞めていく。責務を果たしうる人物が将来も残っているか不安になる」(経産省・30代)との現場の危機感は高まるばかり。さらに上が詰まっており、働き続けても出世は遅れる一方、安倍一強の中で官邸の顔色ばかりをうかがう幹部は出世する。

閉塞感が強まる霞が関はどこに向かうのか。その打開策は見えてこない。

『週刊東洋経済』6月23日号(6月18日発売)の特集は「官僚の掟 忖度エリートのカネと出世」です。
林 哲矢 東洋経済 記者

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はやし てつや / Tetsuya Hayashi

日本経済新聞の記者を経て、ハーバード大学(ケネディスクール)で修士号。『週刊東洋経済』副編集長の後、『米国会社四季報』編集長。

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