国家的プロジェクト 次世代スパコンに暗雲

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巨額の設備投資が負担 国の“配慮”に恨み節も

 半導体業界では、45ナノの最先端工場を建設するには約3000億円、45ナノのCPU開発に限っても500億円は必要とされる。だが、富士通もNECも半導体は不調。前07年3月期は富士通がCPUなどLSIで200億円相当の事業赤字、NECエレも2期連続で営業赤字だった。 この苦境で両社とも、45ナノ以降の量産のコスト負担に耐えられないのが実情。先日開催された定時株主総会で、NECエレの中島俊雄社長は45ナノ技術について「自社単独では難しい」と、量産化にメドが立っていない状況を示唆した。「スパコンは技術の象徴。ぜひやりたい。でもカネがね」。富士通の黒川博昭社長は6月上旬に行われた経営方針説明会の後に、渋い表情で語った。

 心臓部品の生産メドがないにもかかわらず、なぜ各社は開発に参加したのか。それは最速スパコンが、手掛けたメーカーに大きな名誉と実益をもたらすからだ。

 名誉の例は国産最速スパコンだったNECの地球シミュレータ。02年にそれまでの最高値の5倍近い35・8テラを達成し、米国の官民を「ソ連に宇宙開発で先を越されたスプートニクショック以来の衝撃。“コンピュートニク”だ」と青ざめさせた。その効果で、同クラスのNECのスパコン受注台数はその後2年間で急増。「特に(スパコンメーカーのない)欧州向け出荷が急拡大した」(スパコン営業担当者)。

 一方、実益は開発メーカーに割り当てられる巨額の予算だ。今回の総額1154億円のうち、CPUを含むハードウエアに割り当てられるのは約800億円である。

 産業振興への国費投入に厳しい昨今、この800億円は電機業界に割り当てられた数少ない“おいしいパイ”。だが、メーカー側の大きな誤算は、3社でこのパイを分け合わなければならなくなった点だろう。当初、富士通とNEC・日立連合の2陣営が概念設計案を出し、事業主体の理研が1案を選ぶ段取りだった。メーカー側は単独で800億円の予算を獲得できれば、45ナノの量産化に一気に踏み込めると見ていたフシもある。

 3社体制になった理由を理研は「あくまで技術的な理由」(次世代スパコン開発実施本部)としている。だが参加メーカーからは「巨額の公共予算を1社にだけ配分できないという配慮」との恨み節が漏れる。

 情報科学技術委員会の委員からも「いちばん大変なのは、共同開発。この種の事業が成功した試しがない」との指摘が上がる。米国も日本と同じ目標を掲げスパコン開発を進める中、事業遅延が現実となれば最速を逃す可能性が高い。3社共同での国策スパコン事業は、共倒れすらしかねないのが現実のようだ。

(書き手:杉本りうこ)

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