国家的プロジェクト 次世代スパコンに暗雲
1000億円超の国費を投入し、世界最速のスーパーコンピュータを作る計画が本格的に始動した。だが電機3社での共同開発体制に、早くも危険信号がともっているという。(『週刊東洋経済』7月7日号より)
「プロジェクトの遅延につながる」。6月中旬、文部科学省・情報科学技術委員会がまとめた次世代スーパーコンピュータの概念設計(基本設計)に関する報告書は、巨大プロジェクトに垂れ込める暗雲を指摘した。
報告書の中身は世界最速を狙う次世代スパコンの開発生産企業に富士通、NEC、日立製作所の3社を選出したもの。従来1社が手掛けてきた国産スパコンとしては異例の共同開発だ。手続き上は総合科学技術会議(議長・安倍晋三首相)での承認が必要ながら、報告書で開発の枠組みが事実上決定されたことになる。だがその“日の丸共闘体制”に、早くも事業遅延の黄信号がともっている。
次世代スパコン事業は、文科省が予算総額1154億円を投じコンピュータ技術の開発普及を目指す国家プロジェクトで、事業主体は独立行政法人・理化学研究所(理研)。2010年度までに1秒に10ペタ(1ペタは1000兆)回の演算処理ができる性能を持つコンピュータを運用させ、米国の任意団体・トップ500プロジェクトが年2回発表するランキングで首位をとる狙い。1000億円超の科学技術関連事業は「高速増殖炉もんじゅの開発に並ぶ、近年数少ない」(文科省情報課)巨大プロジェクトだ。
この国威と血税を懸けた事業を遅延させかねないと報告書が指摘したのは、スパコンの心臓である半導体・CPU(中央処理装置)の問題だ。実は今回想定する水準のCPUを製造する企業が国内に皆無なのだ。
スパコン用CPUそのものは富士通が並列計算に強い「スカラ型」、NECの半導体子会社・NECエレクトロニクスが大量のデータ計算に強い「ベクトル型」を生産している。だが今回の10ペタを実現するには、CPUチップの中を走る回路の線幅が45ナノメートルに微細化され、消費電力が抑制されることなどが前提。この45ナノの半導体については、量産のメドがまったく立っていない。
日立も半導体では三菱電機との合弁会社・ルネサステクノロジを抱えるが、同社はそもそもスパコン用CPUを手掛けておらず、この部分には貢献できそうもない。