ディーラーで自動車保険販売過熱の裏事情 新車の値引きをダシに勧誘の「グレー行為」も

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金融庁の認可が必要な保険商品・保険料率については、保険業法第300条によって、「虚偽のことを告げる行為」や「不当な乗り換え募集行為」、「保険の割引や割り戻し、保険募集に関しての特別利益の提供」などが禁じられている。特別利益と見なされる基準は、保険募集時に提供する物品やサービスが、社会的相当性を超えているか、換金性に照らして実質的に保険料を割り引いているといえるか、などだ。車の値引きや下取り価格上乗せは実質的な保険料割引に相当し、極めて“グレー”といえるだろう。

この件について、金融庁は「個別具体的な情報や証拠がないと判断できない」(監督局保険課)と話すのみ。複数の損保関係者は、「過去はいざ知らず、現時点でこうした行為に及んでいるとは到底考えられない」と口をそろえる。その理由として、2017年1月に金融庁の特別利益に対する見解が変更されたことがある。ビール券など従来換金性が低いとされてきたものの配付まで不可とされたことを受け、損保各社は代理店に対して特別利益提供の禁止を徹底している。

ディーラー優遇策に高まる不満

規制強化以降、保険専業のプロ代理店や企業代理店などの間では不満がくすぶっている。「われわれはお客様にティッシュ一つ配るにもビクビクしている。なぜディーラーだけが優遇されるのか。専用の自動車保険プランは特別利益の提供ではないのか」(プロ代理店経営者)と批判の矛先は損保の“ディーラー優遇策”に向かう。

自動車メーカーと大手損保が組んで特別な保険を拡販する最大の狙いは「顧客囲い込み」だ。ディーラーは、損保各社が引き受ける自動車保険のうち約2割(保険料ベース)を扱う主力販売チャネル。そのうえで、「自動車が売れれば、保険も売れる」という点でメーカーと損保の利害は一致する。無料補償やローンと一体化した保険を提供し新規顧客を囲い込もうという思惑が両者にある。両者の蜜月関係によってディーラー以外の代理店が割を食っている構図が見える。

自動車保険について十分な知識を持つ消費者は多くない。ディーラーで保険も一緒に契約したほうが便利と考える消費者もいるだろう。しかし、過剰な販売攻勢が結果として消費者に不利益をもたらしていないか、懸念も残る。保険業法第300条を順守した適正な販売かどうかあらためて検証する必要があるだろう。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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