「ひたちなか海浜鉄道」、黒字達成の経営手腕 「ガルパン」ファンが利用、延伸計画にも弾み

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自治体の鉄道利用促進施策も心強い。「ひたちなか市が運行するコミュニティバスのダイヤを、湊線に合わせてくれています。市役所を経由するバスのほとんどが湊線に接続します。市も、マイカーではなく、公共交通を使いなさいとかけ声もかかっているそうです」(吉田社長)。

こうした施策の効果がじわじわと表れた。市内や水戸での大規模イベント時には、夜間帯に遅延が出るほどの乗降があるという。遅延は困るけれども、うれしい悲鳴だ。原因がわかれば解決策はある。増結するか、増発するか。コストとのバランスを見極め、多少の遅延なら許容範囲内という見方もできる。

最近の燃料費の高騰が懸念材料だ。先日もガソリンが3年半ぶりに1リットル150円突破と報じられた。軽油も3年半ぶりの高値更新となった。「2017年度は前年比238万8000円のアップでした。この調子で上がっていくと、燃料費高騰が経営悪化の主因になりかねません」(吉田社長)。

ただし、悪い材料ばかりではない。2021年には平磯―磯崎間に新駅を設置する予定だ。ひたちなか市が5つの小中学校を統合し、新校舎の近くに駅を作る。「この駅自体はサツマイモ畑の真ん中ですから、定期外、通勤の需要増は見込めません。しかし、ひたちなか市は児童生徒の通学上の安全を守る立場から鉄道通学を勧める計画です」(吉田社長)。ひたちなか市は2017年に「通学路交通安全プログラム」を策定し、道路の歩道整備、補修状況などを調査、改善する取り組みを始めた。その中で、安全な通学路として鉄道の活用を視野に入れている。全体的な通学利用促進策で、ひたちなか海浜鉄道は1000万円程度の増収が見込めるという。

鉄道にかかわると、いいことがある

ひたちなか海浜鉄道の施策は、趣味的に見ればとても地味だ。ほかの地方ローカル線に見られるような観光列車は走らない。鉄道を売りにする観光キャンペーンもほとんどない。地域の交通手段という役割に忠実だ。しかし、その結果として、地域から身近な交通手段として認知され、利用者が増えている。逆説的に言えば、そうした「飾らないありのままのローカル線の雰囲気」が鉄道ファン、旅行ファンには魅力的ともいえる。

ひたちなか海浜鉄道の好成績は「地域との共生」だと評価されている。確かにひたちなか市のバックアップは強力だ。それも沿線地域の人々の強い意志があったからだ。

「応援団(おらが湊鐵道応援団)との連携がとても重要です。地元に根を張って活動してくださいます。応援団と話をすると、地元の交通需要がはっきりわかります。終電時刻を繰り下げたい、那珂湊―勝田間の運行本数を倍にしたほうがいい、通学定期券は年間販売にしようとか。お客様の声をしっかり聞いて、実行してきました。それがお客様を増やせた要因だと思います」(吉田社長)

地元の学生の貴重な交通手段として活躍する(筆者撮影)
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