「ひたちなか海浜鉄道」、黒字達成の経営手腕 「ガルパン」ファンが利用、延伸計画にも弾み

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しかし、チャンスであることは間違いない。吉田社長はこう説明する。

「延伸には78億円くらいかかると見込まれています。大変な金額ですが、常陸那珂港に対する国の支援は2ケタ違う。それに比べれば安い、と行政から意見が出ています。いまひたちなか市で検討している枠組みは、78億円の3分の1を国で、3分の1を県と市で、3分の1をひたちなか海浜鉄道で負担します。当社の負担は26億円。当社の年間売り上げの10倍以上です。

でも、ひたち海浜公園の利用者220万人のうち、1割が鉄道を利用するとして、22万人。この方々が往復1000円のきっぷを買ってくださると、2億2000万円です。収入が倍になります。そして、26億円を2.2で割ると、10年ちょっとでモトが取れます。これは事業として成立する数字です。もう、税金で鉄道を支えるという話ではないのです。

この延伸部分では、終点予定駅付近にコストコなどの商業施設がありますし、途中に造る駅周辺は市が住宅を整備する構想もある。でも、その数字を期待しなくても成り立ちます。さらにいうと、現在、鉄道とシャトルバスでひたち海浜公園を往復される客のうち、3割くらいが那珂湊駅で途中下車して、おさかな市場など観光回遊ルートに流れます。22万人の3割は6万6000人。その人たちが地域で数千円使ってくれると、かなりの経済効果があります」

公募社長として赴任する時の約束

吉田社長からは「観光列車の運行」という話が出なかった。ひたち海浜公園への延伸も、観光地に行くための列車の話だ。地道に輸送業、交通手段に徹するという姿勢は崩さない。なぜなら、それが公募社長として赴任する時の約束だったからだ。

ひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長(筆者撮影)

ひたちなか海浜鉄道の場合、市がしっかりと開業後10年間の計画を立てた。社長候補はその計画を基本に仕事をすると納得し、そのうえで候補者が自らの経験に基づいた業務方針を伝え、ひたちなか市が方針を了解した。その結果、相互の認識に齟齬がなく、こんにちまでスムーズに業務にあたれた。これがひたちなか海浜鉄道の成功の要因だ。

日本初の公募社長就任から10年。決算書の承認と吉田社長ほか取締役の重任が決まった。第三セクター鉄道の公募社長最長任期を更新した。吉田社長の堅実、誠実な経営手腕のもと、ひたちなか海浜鉄道に路線延伸という、新たな道が開かれつつある。

地方ローカル線だって、適切な投資をすれば事業性はある。ひたちなか海浜鉄道の延伸が、ローカル線問題を考えるうえで、大きな転換点になるかもしれない。

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