近鉄「フリーゲージ列車」開発宣言の舞台裏 実現が頓挫「フリーゲージ新幹線」の延命策か
その理由は国土交通省主導で行われてきたFGT開発の動きに見て取れる。FGTの最適な使い道として注目されてきたのが、2022年度に開業が予定されている九州新幹線・長崎ルート(通称・長崎新幹線)だった。全線フル規格ではなく、新鳥栖―武雄温泉間は在来線へ乗り入れることになっている。
山形新幹線と秋田新幹線も、それぞれ福島駅、盛岡駅から在来線に乗り入れる。新幹線と在来線を直通させるため、在来線のゲージを標準軌に広げたり、三線軌条を敷いたりといった大工事を行い、新幹線と在来線の直通を可能にした。これはミニ新幹線方式と呼ばれる。
長崎新幹線は当初ミニ新幹線方式やスーパー特急方式(高規格の在来線)が想定されていたが、その後FGT方式で建設が進められることになった。在来線区間の大掛かりな改軌工事に比べれば、車両開発コストを含めてもFGTのほうが安上がりであることに加え、東北の路線と異なり在来線区間の鉄道利用者が多いため、そもそも日中に鉄道を運休させて改軌工事を行うのは難しいという事情があった。FGTでも線形の悪い箇所の改良工事をする必要はあるが、その範囲は最低限で済む。
FGTの開発は1990年代からスタートし、これまでに3タイプの試験車両が製造された。第2次試験車両は在来線の耐久走行試験をクリアし、実用化を前提とした第3次車両が2014年に完成した。FGTは従来の車両とは構造が異なるため車両重量が線路に与える負担の大きいことがネックとなっていたが、第3次車ではその点も通常の車両と遜色ないレベルまで改善された。
JR九州はFGTに見切り
しかし、第3次車は新幹線・軌間変換・在来線の3モード耐久走行試験の過程で軸受けと車軸の接触部に摩耗痕が見つかり、試験は中断。対策を講じたうえであらためて走行試験を行ったが、改善に時間を要し、2022年度の開業時にFGTが間に合わないことが明らかになった。長崎新幹線は武雄温泉駅で在来線と新幹線を乗り換える形でスタートすることになった。
しかも車両維持に多額の費用がかかることが新たに判明し、運行を担うことになるJR九州(九州旅客鉄道)の青柳俊彦社長は、「FGTによる運営は困難だ」と発言、長崎ルートへのFGT導入を事実上断念した。現在の長崎新幹線はフル規格も視野に入れながら検討が進められている。
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