ホンダがアメリカで熱狂的に愛される理由 3年連続イヤーカー受賞を支えるブランド力

拡大
縮小

汎用機、2輪車、4輪車といった製品だけが、ホンダブランドを築く要素ではない。ホンダは、1988年に16戦15勝という年間最多勝利記録の偉業を成し遂げていた第2期F1への参戦を1992年で終了すると、米国のインディカー・レースに1994年からエンジン供給という形で参戦し始めた。インディカー・レースの中でも伝統のインディ500は、時速350キロメートル以上の速さでオーバルコースを周回し、500マイル(約800キロメートル)を走りぬく。それはエンジンの威力なくして成しえないレース形態だ。

米国でこれといったモータースポーツ活動をしてこなかったホンダの現地における印象は、スーパーカブ導入以来の賢い選択という意味で、シビックやアコードなど乗用車メーカーとしか消費者の目には映っていなかった。そこにレース活動が加わることで、より魅力あるブランドへ成長させる可能性があるとみられた。

米国でF1はあまり人気がない。それに比べ、超高速で走り続けるインディ500に象徴されるインディカー・レースは、米国人好みの単純でわかりやすくすごさの伝わるスタジアムゲーム的なレースである。

シリーズ中核のインディ500は、1911年に第1回が開催された伝統あるレースで、世界3大レースの1つである。開催前には市街を出走ドライバーがパレードするなど町をあげた祭りの雰囲気がある。出場ドライバーやメーカーがただ勝ち負けを争うだけでなく、参加するすべての人や企業が地域の仲間となって、地元を盛り上げるモータースポーツイベントなのである。インディ500への参加は、ホンダが米国の市民権を得たきっかけといっても過言ではない。

トヨタも1996年からインディカー・レースに参戦していたが2005年で撤退し、2000年から出場している米国のNASCAR(ストックカーレース)に集中するとして現在に至る。

F1同様、フォーミュラカーによるレースは、商品の姿を直接的に見せ勝敗を争うモータースポーツ、たとえば米国のNASCARと異なる。だがエンジン供給という形での参戦において、2輪・4輪・汎用の製品をそろえ、交通手段だけでなく生活を支える世界一のエンジンメーカーというホンダの姿を強く訴えかけるには意味のある参戦形態といえる。

そこが、4輪メーカーとして商品を訴求することを第一とするトヨタや日産との違いである。

米国で知り合った典型的なホンダファン

2輪・4輪・汎用を上手に浸透させながら、市場での信頼を勝ち取るのがホンダであり、私が米国で知り合った高校教師は、Hマークのついたアポロキャップを愛用し、古いながらもアコードに乗り続け、ホンダの大型バイクも所有し、ホンダの芝刈り機を使うという、典型的なホンダファンであった。

リッジライン(写真:Honda Media Website)

ほかにも、会社勤めの一般市民が自分のボートで川や湖で遊ぶことが特別なことではない。ホンダには船外機がある。富裕層は、プライベートジェットで移動することもある。ホンダには、ホンダジェットがある。そのような米国人にとって、2輪・4輪・汎用を展開するホンダは米国市場で根強い人気を保ち続けているのだと思う。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
自動車最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT