スバル、またもや927件不正発覚の異常事態 1カ月の再調査で「ウミ」を出し切れるのか

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「社内調査で数多の弁護士が(検査に携わる社員に)何度もヒアリングしても答えなかったのに、国交省にはこういうことがあった、と答えている。私としては非常に無念だ」。そう述べた吉永泰之社長の顔はこれまで以上に暗かった。吉永社長はこれまでの会見でも繰り返し「ちゃんとした会社にしたい。古い体質の会社から脱却し、社内の風土改革から進めていきたい」と述べ、新たに「正しい会社推進室」「コンプライアンス室」を創設し、自らが旗を振ると宣言してきた。

にもかかわらず、国交省の調査には不正を告発し、社内調査の弁護士には沈黙を続けた一部の社員がいるということは、彼らにそのメッセージがまるで届いていないことの証左だろう。吉永社長は「次にまた何かが出てこないかは自信がない」と吐露さえもした。経営層の思いに反するような形での不正発覚は、現場のトップに対する信頼の低さに加え、トップが現場を掌握できていない事態であることを物語っている。

経営と現場の溝をどう埋めるか

吉永社長は3月に発表された人事で、6月の株主総会後に代表取締役会長兼CEOに退く予定だったが、5日の会見に合わせて、CEOを退任し、代表権を返上することも発表した。CEOは新社長に就任する中村知美専務執行役員が務めることになる。

CEOを退任し、代表権を返上することになったスバルの吉永社長。不退転の覚悟で企業風土改革に取り組むが、そのハードルは決して低くない(記者撮影)

吉永社長は、5月の決算発表の場で、CEOにとどまることについて「CEOをやめることで、問題から逃げていると思われたくなかった」と語っていた。「(何度も不正を出していることで)信用できないと言われても仕方がない状況なので」(吉永社長)、今回方針を変えたという。完成検査不正を発端とした一連の問題、そして社内の風土改革についての業務に専念することになる。

5月の会見では「まだ仮称だが、『一歩踏み出せ運動』というのをやろうと思っている。疑問や不満を下からも積極的に話して、社内のコミュニケーションを促そうとしている」とも話していた吉永社長。しかし、こういった性善説に基づいた施策では実際に現場をグリップすることの難しさが今回浮き彫りになった。

7月には中村新社長のもと、新しい中期経営計画を発表する。それまでに実施される再度の社内調査では、今度こそウミを出し切らなければいけない。一度、多少厳しい方法を使ってでも経営層と現場との意識統合を、強い意志を持って進めていかなければ、また同じ失敗を繰り返すことになってしまう。 

森川 郁子 東洋経済 記者

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もりかわ いくこ / Ikuko Morikawa

自動車・部品メーカー担当。慶応義塾大学法学部在学中、メキシコ国立自治大学に留学。2017年、東洋経済新報社入社。趣味はドライブと都内の芝生探し、休日は鈍行列車の旅に出ている。

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