金正恩が「独特なヘアスタイル」を貫くワケ 会談直前!池上彰氏が北朝鮮の腹の内を解説

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政治や国際関係には、必ず表と裏があります。金正恩のこの行為は、自国では軍部を掌握するためにアメリカとの緊張状態をつくり出す。アメリカに対しては「北朝鮮と直接交渉して平和協定を結んだほうがいい」と思わせるためのアピールだったと考えられます。

金正恩にとっても、核開発は悲願です。なんとしても核兵器を作りたい。しかしアメリカからの攻撃が怖くて仕方がない。

そこでアメリカのニューヨークやワシントンまで届くICBM(大陸間弾道ミサイル)を完成させれば、アメリカから攻撃されることはないだろうと考えます。しかし、ICBMが完成するまでには、もう少し時間がかかる。だから今、北朝鮮を攻撃したら大変なことになるぞ、とアメリカとアメリカ軍が駐留する韓国、日本を牽制し、時間稼ぎをしてきたのです。

とにかく核兵器をつくるという大目標があって、そのためには嘘をついてもかまわない。守る気のない条約を結んでもかまわない。そういうことを北朝鮮は続けてきたのです。

北朝鮮が核保有に執着する理由

ではなぜ、北朝鮮は核兵器を持つことに執着してきたのでしょうか。

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ICBMができたら、もう、アメリカから攻撃されないと考えますよね。アメリカに対して、「北朝鮮を核保有国と認めなさい、そして平和条約を結びましょう」と言うことができるわけです。現在も朝鮮戦争は休戦している状態で、終わっていません。本当にこれで朝鮮戦争を終わりにしましょう、ということを北朝鮮は狙っているのです。

平和条約を結んでしまえば、「北朝鮮はアメリカを攻撃しません。韓国を攻撃することもありません。だから、アメリカ軍は、もう、韓国にいる必要はないですよね。どうぞお引き取りください、朝鮮半島は平和になるんですから」──北朝鮮は、将来的には、そういう理屈をつけて、韓国からアメリカ軍を撤退させようと考えている。アメリカ軍がいなくなれば、韓国は核兵器を持っていないから朝鮮半島はこっちのものだ、という長期戦略を持っているのでしょう。

国際社会は、北朝鮮のそういう思惑を察しています。アメリカが北朝鮮の核保有を認めて平和条約を結ぶことはないと考えています。ところがアメリカのトランプ大統領は「アメリカファースト」、アメリカ第一主義を唱えています。アメリカさえよければ、ほかの国はどうなってもいい、という独善的な考え方です。「再び朝鮮戦争が始まっても、死ぬのは朝鮮半島の人々でアメリカには関係ない」という発言をしたこともあります。

トランプ大統領が日本のことを考えずに、北朝鮮と平和条約を結んでしまうのではないか。日本の政府の中にも、疑心暗鬼になっている人たちがいます。

アメリカのトランプ、北朝鮮の金正恩、予測不能な両国の間で、日本はどんな対応をすればよいのか。大変難しい課題に直面しているのです。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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