報道を娯楽と勘違いするマスコミにモノ申す 猪瀬直樹が「ラストニュース」に込めた思い
全ストーリーに強いメッセージを感じる。だが、私は第2巻に登場する日野のこのセリフに猪瀬さんの報道に対する思いが集約されていると考えている。
「マスコミは問題提起をする義務はあっても、人を裁く権利はない」
マスコミは暴力、無意識のうちに被害者を作り、気づかぬうちにその暴力性を巧みに利用していることがあると日野は言う。あえて事例を挙げないが、昨今の報道を冷静に振り返ってみても、そんな一面が垣間見えるのは私だけだろうか?
現代にも通じる普遍的な内容
この『ラストニュース』は、テレビ自体が全盛であったといえる時代のマンガ。しかし、ストーリーや作中で扱う事件・事故のひとつひとつは今でも繰り返し発生しているような普遍的な内容だ。
猪瀬さんに、この作品にどんな思いを抱いていたのかを聞いてみた。
「90年代、この本を読んでテレビマンになった人がけっこういます。テレビの報道は、誤報で報道被害を生みやすい。速報だからです。そこでその日の11時59分から訂正放送をすることで被害を食い止める、という画期的な提案でどこかのテレビ局がやってくれないかと思って書きました。ネット時代、いっそうそのニーズがあると思います」
90年代といえば、久米宏、筑紫哲也、木村太郎等スター的キャスターが台頭していた時代。普段テレビを見ない私も報道番組だけは欠かさずチェックしていた。国内外の情勢を自分なりに受け止め、考えていたことを記憶している。ネットニュースも存在しない当時のテレビマンたちは、真摯に報道番組制作に向き合い、視聴者もそれを感じ取っていたのかもしれないと、猪瀬さんの言葉からいろんな思いを馳せる。
偏向報道、扇動的報道による風評被害などについて、ネット界隈でも瞬間的に関心が高まり議論が活発になるが、飽きられたり、忘れられたりするのも早い。報道によって生活や人生を破壊されてしまう人々が少なくないというのに、一過性の娯楽となりがちなのは、あまりにも残酷。
「報道の自由」や「ジャーナリズム」について考えることは、メディアリテラシーを高める機会にもなりそう。この『ラストニュース』は昔の作品ではあるが、今読んでもまったく色褪せず、むしろ気づきが多い作品である。
(文:猪狩 久子)
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