しなの鉄道「車両戦略」のスゴい中身 中古は懐かしの塗装、新車は有料ライナーに

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玉木社長は「田中駅の開業日の12月1日に間に合うように車両は押さえている。台湾の方に親しみを感じてもらいたい」と意気込む。さらには「台湾の観光列車を盛り上げるため、台湾人乗務員をろくもんを使った研修に招きたい」と交流を深める考えだ。

車両更新は運用コストを重視

そして、同社が今後導入する新型車両にも、将来を見据えたコスト意識が強く出ている。

しなの鉄道の玉木淳社長(筆者撮影)

当初は中古車両の購入を検討したという。しかし、「中古車を入手しても10年ぐらいでまた買い替えないといけない。更新を2回するより新車を購入したほうが安くなる」(玉木社長)。

車両は総合車両製作所製のステンレス車「サスティナ」の「S23」というモデル。JR東日本が新潟地区で運行する「E129系」に採用されており、共通設計により製造コストが抑えられる。また、すでにJRでの運行実績があるために初期不良のリスクが低いという。運用コストの面も老朽化した115系に比べ、消費電力量は半分、車両検修費は3分の2程度に抑えることができると試算された。

新車の車両購入費は52両(2両×26編成)で計106億8000万円と巨額だが、国、県・沿線市町、同社がそれぞれ3分の1ずつを負担する。補助金額や利用状況などによって車両数の見直しはありうるが、現時点で初年度は3編成(6両)、2年目・3年目は4編成(8両)ずつ、残り5年は毎年3編成ずつ、つまり8年かけて導入していく計画だ。

なお、現在のしなの鉄道の一般車両は車内トイレがないが、新型車両の全編成に車いす対応トイレを設置する。自動制御の冷暖房やドアの開閉ボタン、空気バネ使用の台車で、現行より大幅に快適性が向上するという。

さらに、新車を収益増強策にも活用する。初年度に導入する新型車両を使って、有料ライナーを運行するのだ。朝夕の通勤用や休日の観光用には進行方向を向いた2人掛けのクロスシート、それ以外の一般車両としては横一列のロングシートに転換して運行できる仕様にする。営業運転開始は2020年7月ごろを予定。料金や運用方法などはこれから詰めるが、同社で有料ライナーが復活するのは2015年3月以来となる。

一方、完全引退に向けて希少価値が一層高まる115系を活用した貸し切り列車の運行など、この先新たな企画が生まれてきそうだ。同社はこれまでも限られた経営資源の中で、知恵を絞って沿線住民やファンの期待に応えてきた。たとえば、コカ・コーララッピング電車の導入に当たっては、クラウドファンディングで資金を調達した。これは予算を確保していなかったことによる苦肉の策だったが、ふたを開けてみれば目標金額の290万円を大きく上回る396万円が集まった。このように蓄積してきたノウハウを今度どうやって集客につなげていくか、その動きから目が離せない。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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