エスティマやキューブが全面改良しないワケ 長く作り続けなければならない車種の悲哀

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■SUV/ほかのカテゴリーとは違う事情も絡む

SUVはほかのカテゴリーとは事情が少し違う。ランドクルーザーのようなフレーム構造のオフロードSUVは、もともとフルモデルチェンジの周期が長い。海外で売られるトヨタランドクルーザー70の発売は1984年だ。極悪路で使われるから、フルモデルチェンジでいろいろな機能が向上したことで、走破力が若干でも下がると目的地に到着できない。海外のトヨタの販売網が乏しい地域では、ユーザー自身が修理機材と部品を蓄えて、数台のランドクルーザー70を使うこともある。

ちなみに第2次世界大戦中のジープは、部品の互換性が重視された。仮に4台のジープが破損したら、それをバラして使える部品を集め、走行可能な2台を組み立てる利便性が求められたからだ。ランドクルーザー70の開発者にこの話をしたら「まさに同じようなことが行われている」とのことだった。

ただしジュークやRVRのようなシティ派SUVは、一般的な乗用車と同じだ。市場環境、新型車を開発する投資などのバランスから、フルモデルチェンジが長引いている。

■スポーツカー/カテゴリー全体の販売不振で1車種を長く造る

最も辛いのがスポーツカーだ。人気の下降は国内が顕著だが、海外も年々厳しさを増している。フォード「マスタング」、シボレー「カマロ」、ダッジ「チャレンジャー」などは、いずれも外観を初代モデルに回帰したような形状にした。ユーザーが高齢化して、40~50年前の初代モデルを知っている人達をターゲットにしたからだ。日本車では日産「GT-R」「フェアレディZ」がともに古くなった。

トヨタ「86」とスバル「BRZ」、今後登場するトヨタ「スープラ」とBMW「Z4」という具合に、業務提携がスポーツカーの開発でわかりやすく示されるのも、スポーツカー市場全体の売れ行きが減り、合理化する必要が生じたからだ。売れないと長くつくったり、姉妹車を増やしたりせねばならない。

試される国内市場への本気度

今はデザインや加速性能が、進化の時期を終えて安定期に入った。クルマの耐久性も高まった。1990年頃までは、10年を経過したクルマは見栄えが古くなって内外装も色褪せ、走りや乗り心地にも不満を感じたが、今は2007年式のデリカD:5やプレミオ&アリオンを普通に使える。このような変化も、フルモデルチェンジの長期化に影響している。

しかしそれを理由に長期化を認めることはできない。マイナーチェンジでは衝突安全性を高められず、装着可能な安全装備も限られ、軽量化を含めた環境性能の抜本的な向上も難しいからだ。クルマも生物と同じように、世代交代、つまりフルモデルチェンジで進化する。

昨今は各メーカーともに、電動化を含めた環境性能、自動運転、通信機能など、将来に向けた研究開発を迫られている。その分だけ新型車の開発に使える予算が減るから、配分の仕方が従来以上に重要になった。日本で売るクルマにどれだけの開発費用を充てられるのか? フルモデルチェンジできない主力車種は、メーカーの国内市場に向けた本気度を示している。

渡辺 陽一郎 カーライフ・ジャーナリスト

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わたなべ よういちろう / Yoichiro Watanabe

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまにケガを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人たちの視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。

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