レクサス「ES」日本初導入の小さくない課題 今秋発売の上級セダン、内なる敵との競合も

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単に「良いクルマ」というだけでアメリカでは売れない。そこにはアメリカ社会に純然と存在する「貧富の格差」が所有車種で具現化されている現実も大きく作用している。カムリとESでは、パワートレーンの共通性があっても、そこには大きな“格差”が存在するのである。けっして“レクサス版カムリではないのである。新型ESが世界初披露された中国でも貧富の格差は広がっている。

クルマのヒエラルキーが厳格ではない日本市場では?

このESは日本で売れるのか。クルマのヒエラルキーが厳格ではない日本市場では、アメリカでの販売好調な背景をそのまま日本でも当てはめられない。

まず、日本とアメリカではオートローンの事情はずいぶん異なる。まず、日本のローン審査は諸外国に比べれば格段に緩い。ローンを組む際は、購入車の所有権を留保(返済期間中は勝手に売却したりできない使用権のみ与えられる)することにもなるので、与信は格段の事情がないかぎりはすんなり通る。しかも個々人で金利が異なったり、融資額が不足したりといったこともない。少々問題があっても連帯保証人をつければまず問題はない。

そのため、よほどの超高級車でもないかぎりは、ドイツ系プレミアムブランド車であろうが、それこそレクサス車であろうが、現金一括払い(いまはマネーロンダリング防止の意味もあり口座振り込みが多い/日本ではまだまだ現金払いが多い)ができなくても、ローンを組むことでお気に入りのクルマがあれば自由に購入することが可能となっている。そこには社会的地位などはあまり影響しない。

ポイントは価格設定にもあるか(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

そのほかのポイントは価格設定だろう。現行GSの車両本体価格が577万円からなので、これに合わせるのか。右ハンドル化や日本の法規対応なども行うので、アメリカ並みの価格設定を維持するのは難しいだろうが、ドイツ系の高級輸入車と比べられることも考えると、あまり高くもできない。

レクサス車は従来、地方で強みを見せていた。都市部に比べて、地方都市では富裕層であっても、世間体を考えると、なかなかベンツやBMWなどの輸入車を大っぴらに乗りにくい空気があったからだ。ただ、近年は輸入車販売店も地方都市を網羅。特にベンツ、アウディ、BMWといった、ドイツ系高級ブランドのステータスは高く、基本的に車両値引きをしないレクサスに対して、特に値引きをドーンと仕掛けることもあるドイツ勢はレクサス車の販売をかなり脅かしている。

「内なる敵」ともいえるトヨタ内の競合車とも明確な差別化も必要だろう。レクサス最上級車のLSや、中級のISとは価格設定や位置づけ、キャラクターの差が明確だが、新型ESの日本導入にあたっては価格設定次第で、6月下旬に発売を控える新型クラウンともバッティングしかねないし、ボディサイズやパワートレーンの近いカムリとの差別化も難しくなる。

日本ではなんだかんだでトヨタブランドの安心感や販売力は強い。価格設定を間違えると、ESは単に「売りにくいクルマ」にもなりかねない。日本初導入の決して小さくはない課題といえるだろう。

小林 敦志 フリー編集記者

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こばやし あつし / Atsushi Kobayashi

某メーカー系ディーラーのセールスマンを経て、新車購入情報誌の編集部に入る。その後同誌の編集長を経て、現在はフリー編集者。

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