ニコ動、「V字回復シナリオ」の厳しすぎる現実 有料のプレミアム会員は1年で36万人減少

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窮地に陥ったドワンゴだが、今年度はウェブサービス事業の営業利益が10億円まで回復する計画を立てている。どのような計算なのか。内訳を見ると、有料会員数は201万人まで引き続き減少すると想定されている。一方、大きな成長を見込むのが「都度課金」だ。生放送と連動したゲームや配信者への投げ銭といった新機能を投入し、新たな収益源にしようとしている。

「ニコニコ(く)」の発表会では、動画の生放送と連動するゲームなどの新機能が発表された(記者撮影)

昨年10月の発表会後から取り組んできた画質や読み込み速度の改善については、「システム開発の大きな山は超えた」(会社側)といい、今年度はインフラコストが縮小する見通しを立てている。上記の新機能による売り上げの増加にこの費用減が加わるというシナリオを、V字回復の根拠としている。

だが、都度課金の具体的なサービスが明らかになるのはこれから。当たるかどうかは未知数だ。長年、ニコニコ関連の売上高の約8割は有料会員収入が占めてきた。だが今年度の売上高では、有料会員収入と都度課金収入がほぼ半々の割合になる想定だ。まったくの新機能をわずか1年で収益柱に成長させるのは、決して容易ではない。

不安なのはKADOKAWAも同じ

不安視されているのはドワンゴだけではない。グループ内のもう一つの中核企業・KADOKAWAでも、達成のハードルが高そうな業績計画が立てられている。

KADOKAWAが今年度、大幅な増益を想定するのが映像・ゲーム事業だ。営業利益は昨年度の29億円から今年度は70億円へと、41億円もジャンプアップする計画を立てている。これは昨年度に膨んだ映画制作にかかる費用が減ること、昨年度からズレこんだゲームの新作発売が複数予定されていることなどを前提としている。

費用の減少はある程度見通しが効くかもしれない。一方でゲームは、業界全体でヒットの予測が困難になっているのが実情だ。最近では大型の新作投入を予定していても、ひとまず保守的に前年並みの売り上げ予想を立てておくという企業が少なくない。期初からゲームの回復を謳うKADOKAWAの計画は、それなりのリスクをはらんでいる。

ニコニコ動画関連での大幅な開発の遅れ、ユーザーからの批判殺到、業績予想の下方修正と、昨年度はあらゆる“想定外”に見舞われたカドカワ。今年こそ自ら打ち立てた計画を達成できるか。その道のりは限りなく険しい。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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