「AI×人口減少」の未来を乗り越える処方箋 保育園を変えれば状況は大きく変わる?
加谷:つまり、非常に狭い問題解決しかできないことになりますよね。そうなると、単に文章を読めないという問題にとどまらず、あらゆる技術系の分野や、エリート層と呼ばれる人たちにも共通の課題になってきますね。
結局のところ、文章をちゃんと読ませて、内容を理解させて、自分もそれに倣って書くというトレーニングを「気をつけて」やらせることが、読解力を伸ばすには一番効果的なんですか?
新井:ただ気をつけるだけじゃなくて、文字とイメージとを結びつけられるようになるには、切実な体験に基づいたリアリティが必要だと思います。
一般論として、渇望感が適度にあるほうが伸びしろが大きい、と私は思います。一人っ子なら好きなだけお菓子を食べられますが、兄弟姉妹がいたら分けなきゃいけませんよね。そういう「したいことがあるのにできない」というストレスが、工夫や交渉といった問題解決に子供を向かわせる。
プログラミングで天才的と言われている松岡聡先生(東京工業大学教授)なども、授業で習って興味を持ったわけではなくて、古いパソコンをもらって、どうやって動かしたらいいか分からないけど、いろいろいじっているうちにハマった、と。そういう方が多いんです。
ちょっと昔なら、ラジオを勝手に分解して怒られて......という人も多いと思うんですが。
加谷:あー、私もまさにラジオ少年でしたねえ。
新井:そうでしょう?(笑) 分解したら元に戻せなくなったとか、聴きたいのに聴けないとか、そういうストレスが「どうにかしたい」というプラスの気持ちにつながります。そういう渇望感がないと、世の中を理解したり、新しいものを生み出したりはできないんじゃないでしょうか。
環境が悪いほうがいいという意味では決してないんですが、やっぱり渇望感があるからこそ、人は大陸を移動してきたんだし、火を起こしたんだと思うんです。だから、渇望感が全然ない生活っていうのは、いいことがあるとは思えないですよね。
「0歳から全員保育園」が打開策になる
加谷:今の子供たちには、文章を理解する力が足りないだけでなく、リアリティも欠如しているわけですね。そうなると、たくさん経験をさせればいいということになると思うんですが、やはり家庭環境が極めて重要ということでしょうか?
新井:いえいえ。今の時代、家族だけで子供を育てるのはもう無理になっているので、反対に、0歳から全員保育園に入ったほうがいいんじゃないか、と私は考えています。
確かに経験はたくさんさせたほうがいいのですが、それは海外に行くとかそういうことではなくて、先ほども言った切実な経験――例えばおもちゃを奪い合うとか、給食の時間まで空腹を我慢するとか――そういう経験を保育園でどんどん積ませたらいいんじゃないかな、と思っています。