大聖堂が建っているのは、地下鉄江戸川橋駅前から急坂を上った高台。目白通りを隔てた向かい側には結婚式場としても知られる老舗・ホテル椿山荘東京があり、周囲は山の手の閑静な住宅地だ。この巨大な聖堂建物の全容を把握するのは難しい。目白通り側の正門に面しているのは大聖堂の側面で、ステンレス張りの銀色の壁面がそそり立っているように見える。
正門を入って敷地内を西側に進むと大聖堂の正面入口前に至るのだが、この場所に立って見ると、ようやく大聖堂が十字架の形をしていることが地上からも理解できる。
内部に入ると、コンクリート打ち放しの大空間。正面の祭壇と十字架は東の方角に位置していて、早朝には外からの太陽の光が背面からアラバスター(雪華石膏)板を通して室内に差し込んでくるそうだ。
そして天井を見上げると、巨大な十字架型の天窓。こちらから室内に降り注ぐ光も宗教施設ならではの荘厳な空間を演出している。正面入口の真上に設えられているのは、教会建築においては日本最大というパイプオルガン。オルガンの音色は大空間ならではの豊かな残響で響き、その調べを聞くと、ここがキリスト教の信仰の場であることをより深く実感する。
建物内部に柱がない理由
この大聖堂建築について建築の専門書や雑誌を参照すると、建物の特徴として「HPシェル構造」という用語が多用されている。HPシェルのHPとは「ハイパボリックパラボロイド」の略で、「双曲放物線面」のこと。高校の数学の時間に関数をグラフ化する問題に毎度悩まされていた身にはつらい思い出が甦ってくる。
さらに建築の門外漢にはわかりにくいことだが、HPシェルとは、この双曲放物線面を描く薄い曲面板のことで、この大聖堂では2面のHPシェルを縦に立てかけて十字架の1辺を形づくり、計8面で頂部に巨大な十字形を作っている。ステンレスの外装に覆われていて見えないが、HPシェルの外側は格子状になっていて、その曲面自体が構造体になっているため、建物の内部に柱などはない。
その構造設計を担当したのは坪井善勝氏。国立屋内総合競技場、大阪万博お祭り広場、香川県庁舎など多くの丹下作品の構造設計を担当している丹下健三の名パートナーだ。
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