ウェバー社長「日本のM&Aの成功事例になる」 武田トップが語る「7兆円買収」への自信

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――これまで武田は3件の大型買収を実施しましたが、失敗もあるのではないですか。たとえば2011年に買収したスイスの医薬品メーカー、ナイコメッドは上手くいっているといえますか。

どういう基準で評価するかですよ。ナイコメッドの買収はパイプラインの改革のためのものではありません。新興国で武田のポジションを確立するのが目的でした。その意味では成功したと思う。

――ナイコメッドの後に買収したブラジルの大衆薬メーカーを、今年4月に売却しました。武田はM&Aが下手なのでは?

すべてが成功するわけではありません。全体として失敗より成功が多いことが大事です。まったくリスクを取らない姿勢は誤りです。何もしないこと、リスクを取らないことこそがリスクです。

クリストフ・ウェバー(Christophe Weber)/1966年フランス生まれ。英国の製薬大手グラクソ・スミスクラインに約20年勤めた後、2014年武田薬品工業入社、同年6月代表取締役社長、2015年4月から代表取締役社長CEO(撮影:梅谷秀司)

世界は非常に早く動いている。じっとしているだけではダメ。われわれも素早く動く必要がある。

(成功案件といわれ、2008年に買収した米国のバイオ医薬メーカー)ミレニアムもパーフェクトではありません。統合には時間がかかりました。ただ、同社の潰瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」は、買収時は無名で価値はゼロでしたが、いまでは年間売上高が1000億円超のブロックバスター(大型製品)に成長しました。

良いニュースも悪いニュースもある。シャイアーもすべてパーフェクトではありませんが、それを考慮に入れても買収が必要だと判断しました。

統合会社の経営は私が見る

――希少疾患に強いシャイアーは高収益企業ですが、今後リスクはありませんか。たとえば、シャイアーが過半のシェアを握る血友病では、中外製薬が開発し、親会社のロシュが世界販売する競合薬が出ます。こうした影響をどこまで織り込んでいますか?

武田と同様に、シャイアーについても製品ごとに相当保守的に今後のビジネスを予測しています。

血友病の話が出ましたが、ロシュの新薬のこともよく知っていますよ。将来にわたりその影響を分析し、かなり保守的にビジネスを組み立てています。シャイアーが持つ製品の特許切れなども織り込んでいます。製品の一つひとつに、ベース、アップ、ダウンの各シナリオ分析をしました。

ただビジネスとして低下する製品があるいっぽうで、伸びる製品もあります。たとえばシャイアーが持つ(遺伝性)血管性浮腫の治療薬は非常に面白い製品です。

――買収が成功した後のシャイアーの経営はどうしますか。ミレニアムの時のように、現在のCEOに経営を任せる考えはありますか。

シャイアーは子会社としては残りません。武田が吸収合併します。買収後にシャイアーという名前は消えて、組織全体が武田と一体化します。経営は私が見るということです。

――日本企業の海外M&A(企業の合併・買収)は失敗も多いです。

買収を成功させるには、計画を立て準備をしたうえで実行することが大事。実行に移ったら、迅速に統合することがカギになります。日本のM&Aは、失敗例が多いかもしれませんが、成功もあるはず。われわれがその成功例の一つになります。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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