原発で働かされた外国人実習生がはまった罠 技能実習制度には、2つの「抜け道」がある

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除染作業などの原発関連作業自体は、技能実習制度の対象となる職種(現在77職種139作業)ではない。技能実習制度は、途上国への技能移転による国際協力を目的とする、という建前がある。そのため、来日前に母国で同種の業務に従事した経験があることや、技能実習を修了して母国に帰国した後に当該技能を要する業務に従事する予定があることが、技能実習が認められるための要件として課される。

事故を起こした原発の特殊な環境下での作業自体は、そのような技能移転の趣旨にそぐわないから、職種として対象とならないのは当然だ。それにもかかわらず、これまで技能実習生による原発関連作業への従事が黙認されてきたのはなぜか。それは、上記の要件が課されるのは、あくまでも技能実習の「必須業務」についてであって、「関連業務」や「周辺業務」については求められないからだ。

「必須業務」とは技能を修得するために必ず行わなければならない業務をいい、「関連業務」とは必須業務に関連して行われることのある業務であって、修得しようとする技能の向上に寄与する業務をいい、「周辺業務」とは必須業務に従事する者が関連して通常携わる業務のうちの関連業務以外のものをいう。

技能実習生は、実習時間全体のうち2分の1以下の範囲で「関連業務」に従事でき、3分の1以下の範囲で「周辺業務」に従事できることとなっている。技能実習生の原発関連作業は、「必須業務」ではなく、「関連業務」や「周辺業務」に押し込まれて行われてきたのだ。

「業務の定義があいまい・実習実施場所の記載不要」

実習生が従事する予定の作業を記載する技能実習計画書(実習実施予定表)は、実習生の受入企業が、厚生労働省が公表している「技能実習実施計画書モデル例」にならって作成して、外国人技能実習機構(法務省・厚生労働省による認可法人)から認定(許可)を受けることになる。

ただ、「関連業務」や「周辺業務」の記載モデル例はあいまいである。たとえば、建設関係の職種についていえば、「必須業務」の記載が比較的詳細であるのに対し、「関連業務」は土工作業(対象職種・作業に係る手作業の部分)、クレーン組立・解体等作業とされ、「周辺業務」は建設機械の移送車両への積載及び移送作業(建設機械置場から現場等)並びに補助作業、不要物の搬出作業など、あいまいで抽象的な記載となっている。

つまり、ここに押し込もうと思えば何でも作業を押し込めるような表現ぶりとなっている。実際、3月に除染作業への従事が発覚したケースでは、実習生は「建設機械・解体・土木」(契約書の作業内容の欄)などとして来日していたという。

さらに、昨年11月から施行された技能実習法に基づく新制度では、技能実習計画書に、実際に実習を実施させる具体的な作業場所(実習実施場所)を記入しなくてもよいことになっている。つまり、技能実習を行わせる企業の事業所(受入企業の工場など)の所在地は記入するが、必ずしも作業ごとの具体的な実習実施場所(建設作業場所など)を記入しなくてもよい。そのため、特に受入企業が別の企業との間で締結した請負契約により、実習生が、受入企業の事業所の所在地とは別の場所で作業に従事する場合に、そのことが審査されないことになり、原発関連施設での作業であることが判明しないのだ。

入管法に基づく旧制度でも、包括的に(基本的には1カ所の)実習実施場所を記載するだけで作業ごとの記載は求められていなかった。このように、申請を審査する技能実習機構や入国管理局には、原発関連施設での作業であることが明らかとならない仕組みなのである。

法務省や厚生労働省は、報道を受けて、今後は、除染を含む実習計画を認めず、計画を申請する企業・団体に対し「除染に従事させない」との誓約書提出を求めることにした。しかし、本来は、実際の作業内容と認定された技能実習計画との齟齬あるいは技能実習計画書への作業の記載自体が曖昧であることも改善しなければならない。実際の作業内容と認定された技能実習計画との齟齬は、あらゆる職種で起きている不正行為だ。

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