「道徳の教科化」に潜む"愛国教育"の危うさ

国が道徳観を定め教師が評価するのは適切か

思へば長き学生時代を通じて得た、信念とも申すべき理論万能の道理から考へた場合、これは或は自由主義者と謂はれるかも知れませんが、自由の勝利は明白な事だと思ひます。人間の本性たる自由を滅す事は絶対に出来なく、例へそれが抑へられて居る如く見えても、底に於ては常に闘ひつつ最後には必ず勝つと云ふ事は、 彼のイタリヤのクローチェも云って居る如く真理であると思ひます。権力主義全体主義の国家は一時的に隆盛であらうとも必ずや最後には敗れる事は明白な事実です。
~中略~自己の信念の正しかった事、この事は或は祖国にとって恐るべき事であるかも知れませんが吾人(編集部注:われわれ)にとっては嬉しい限りです。現在の如何なる闘争もその根底を為すものは必ず思想なりと思ふ次第です。既に思想に依って、その闘争の結果を明白に見る事が出来ると信じます。
愛する祖国日本をして、嘗ての大英帝国の如き大帝国たらしめんとする(編集部注:日本をかつての大英帝国のような大帝国にしようという)私の野望は遂に空しくなりました。真に日本を愛する者をして立たしめたなら(編集部注:真に日本を愛する者に日本のリーダーをさせていたなら)、日本は現在の如き状態には或は追ひ込まれなかったと思ひます。世界何処に於ても肩で風を切って歩く日本人、これが私の夢見た理想でした。

上原氏は、自らの人生を通して学んできた「自由主義」が勝利することは明白であり、その結果日本が敗戦することもまた明白であると強く認識しつつ、つまり日本が敗北するとわかりつつ、自ら命を国に捧げたのである。そんな彼は、真に日本を愛する人々がこの国を動かしていたとしたら、当時のような状態(敗戦をまつような状態)にはならなかったはずであると記している。真に日本を愛するということは、国から制度として定められた規範に従って実現するようなことなのだろうか。

所感はさらにこう続いている。

空の特攻隊のパイロットは一器械に過ぎぬと一友人が云った事は確かです。操縦桿を採る器械、人格もなく感情もなく、勿論理性もなく、只敵の航空母艦に向って吸ひつく磁石の中の鉄の一分子に過ぎぬのです。理性を以て考へたなら実に考へられぬ事で、強ひて考ふれば彼等が云ふ如く自殺者とでも云ひませうか。精神の国、日本に於てのみ見られる事だと思ひます。一器械である吾人は何も云ふ権利もありませんが、唯願はくば愛する日本を偉大ならしめられん事を、国民の方々にお願ひするのみです。

戦前の日本体制の中で、彼は敗戦とわかりつつ特攻隊のパイロットとして命を捧げる自分を、航空母艦に吸い付く磁石の鉄の一分子にすぎないとし、そんな自分に何かを言う権利などないと言いつつも、日本の未来に思いを馳せるのである。

上原さんの所感から学べること

ここにこの所感の一部を記したのはなにも、特攻隊としてお国のために亡くなった方のご遺志を無下にするのか?!と言いたいわけではない。いま一度、われわれが今どこに向かおうとしているのかということを考える必要がある、ということを彼の所感から学べると思うのだ。現代を生きるわれわれは磁石の鉄の一分子ではないはずだ。ものを考え、発言ができるはずだ。

1958年、道徳が「教科」ではなく、「教科外の活動」として特設されたのは、当時の文部省は修身の復活を意図していたものの、道徳を教科とすることへの世論からの反対が大きかったからである。その後今日への流れを止められなかったのも事実ではあるが、世論は一つの力になりうる。「道徳の教科化」には、もちろんそれも大変重要なことなのだが、「小学生の教科に新しい教科が加わった」ということだけではとらえきれない危険が潜んでいる。いま、その意味を考える必要が全国民にあるのではないだろうか。磁石の鉄の一分子ではなく一人の人間として。

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