「道徳の教科化」に潜む"愛国教育"の危うさ

国が道徳観を定め教師が評価するのは適切か

こうした動きが今この時代、この国で起こっているということに目を向ける必要があるのだ。変化の激しい時代、多様性や自由、人権が重んじられる時代に、この動きにはやはり違和感を持たざるをえない。主権が国民になかった戦前の日本で、修身科が授業として行われたのとはわけが違う。自由と民主主義が標榜される国において、国が国民の価値に規範を示したときに起こることは、戦前のそれよりもっと悲惨だ。つまり、現代では自己の意思決定の下、自分自身も気づかないうちにコントロールされる危険性が高いのだ。

正解のない時代と言われ、未来に潜むリスクは個人にとっても社会にとっても挙げていけばキリがない。それでも今日の日本では、自由と平等の下、それぞれの意思決定の先にある結果の責任は自分で取るべきであるという考えが浸透している。社会構造なども踏まえて論理的に考えれば、個人の決断や行為の結果のほとんどは、さまざまな要因の影響を大きく受けている。それにもかかわらずすべてが「自己責任」に回収される、そんな現代の状態を筆者は「自己責任化社会」と呼ぶ。

「自己責任化社会」において、自由と平等が見せかけであるとしたら、この道徳は前回の記事(全国の高校で導入中、活動記録サイトの正体)で紹介した「パノプティコン(従来の法や支配のように単に人を抑圧するのではなく、訓練や教育を通して力をうまく引き出すことで人々を従わせる「規律訓練型権力」の例)」に近い権力装置となりうる。知らぬ間に、自分自身の意志の下、国の規範が内面化されるのだ。しかし「自己責任化社会」においては、その価値観がたとえ国から教授され、押し付けられたものであったとしても、それによる結果のすべてを自分で負わざるをえなくなる。

戦前日本の「修身科」教育の末路

国の価値観が強く反映された徳目の1つに、「国や郷土を愛する態度」がある。「道徳の教科化」の議論において特に話題に上る徳目だ。その中身は、「我が国や郷土の文化を大切にし、先人の努力を知り、国や郷土を愛する心をもつこと」とされる。

改憲の動きがいまだ盛んで、近隣国の動きも穏やかとは言えない昨今、有事がないとも限らない。これまでのように戦争は起きないと誰が言い切れるだろうか。「国や郷土を愛する心」の解釈もさまざまだろうが、もし戦争が始まれば、この道徳の教えによって、いまの若者たちが国家に「主体的に隷属する」可能性は大いにある。

そんな国をわれわれは望んでいるのだろうか。本当にそれでいいのだろうか。

軍国主義が徹底され、「聖戦だ 己れ殺して 国生かせ」といった戦時標語が跋扈(ばっこ)した戦時下の日本において、若者が何を思い、何に苦悩したのか、我々は知っておく必要がある。

22歳で特攻隊員として出撃し、一生を終えた上原良司氏がまさに出撃前夜に記した所感を通して、その中の重要な1つに触れることができる。その所感は現在、鹿児島県知覧のホタル館富屋食堂(当時の食堂で、特攻隊の記念館となっている)に飾られているほか、『新版・きけ わだつみのこえ』(岩波文庫)の巻頭にも収録されている。次に抜き出して引用したい。

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