板門店宣言の638語に込められた大きな希望 現時点で望みうる最高の共同宣言だ
こうした文言になったことで、北朝鮮は非核化への条件交渉が一段とやりやすくなったはずである。理屈の上では、北朝鮮が核を手放すのと引き替えに、韓国に米国との同盟関係を終わらせ、米国による核の傘を放棄せよ、との主張を繰り広げることが可能になるからだ。
しかし、一方では、在韓米軍の存在に対して北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が容認姿勢に傾いているとの報道もある。従来とは大きく異なるスタンスであり、これは中短期的には、米韓同盟を破棄せよとの強硬路線を北朝鮮が取ってくる可能性が低いことを示唆している。
共同宣言はまた、韓国と北朝鮮が「北側が講じている主導的な措置は朝鮮半島非核化のために非常に意義があり、重大な措置だという認識をともにし」とも述べている。背後にある動機はともあれ、北朝鮮による核と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験中止を韓国側が歓迎していることを示すものだ。
北朝鮮の実験中止に対して、韓国は今のところ何らかの交換条件を差し出しているわけではない。ただ、共同宣言は「今後それぞれが自らの責任と役割を果たすことにした」と付け加えており、何らかの追加的措置が近く具体化する可能性もある。
“段階的な非核化”は米国の意思に反する
重要なのは、「軍事的緊張が解消され、互いの軍事的信頼が実質的に構築されるのに伴い、段階的に軍縮を実現していくことにした」と述べていることだ。この文言は、両国が段階的な非核化を望んでいることを明確に示しており、米ホワイトハウスとの間で大きな軋轢が生じる恐れがある。
ホワイトハウスは、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(頭文字をとって「CVID」と呼ばれる)に向けて北朝鮮が前例のない行動をとらない限り、制裁緩和には応じられないとの強いシグナルを発しているからだ。
とはいえ、この共同宣言は米朝首脳会談を目前に控えた段階で発表されたものだ。こうしたタイミングを考えれば、北朝鮮の完全な非核化に向けて、日程を含む明確なロードマップを示すことは、そもそもこの会談の目標ではなかったといえる。
核開発の目的は米国の軍事的脅威から身を守るためだと長年にわたって主張してきたのが北朝鮮だ。そんな北朝鮮政府が、ホワイトハウスと交渉する前の段階で詳細な軍縮プロセスを提案してくると考えるほうがどうかしている。具体策が伴っていなかったとしても、非核化に向けた崇高なる目標が共同宣言に盛り込まれただけで歓迎すべきニュースだ。
南北首脳会談の翌日、完全な非核化への意思が北朝鮮の国内メディアで漏れなく伝えられたことを踏まえれば、これはなおさら歓迎すべき動きといえる。北朝鮮メディアは、北朝鮮政府の本気度を測る試金石だからである。