米朝首脳会談、「情報機関が調整役」の危うさ 国務省とCIAの立場が逆転する異例の事態に

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展開が急な北朝鮮問題。スパイ組織が担う外交というのも異例だ(写真:REUTERS/KCNA handout via Reuters/File Photo & REUTERS/Lucas Jackson/File Photo)

米国のドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の首脳会談実現に向けた関係国の動きが活発になっているが、登場するプレーヤーを見ると通常の外交とはまったく異なっていることに注意が必要だ。

米朝首脳会談をめぐる中心的役割を米国はCIA(中央情報局)、北朝鮮は朝鮮労働党統一戦線部、韓国も国家情報院と、いずれも普段は敵対国の軍事情報などの収集や分析を任務とする情報機関が担っている。一般的に首脳会談は事前に国務省や外交部といった外交部門の幹部が繰り返し協議し、首脳会談で話し合うテーマを絞り込み、一致点を見出す作業を行う。ところが今回、外交部門の幹部はほとんど姿を見せておらず、「外交官抜きの外交交渉」が繰り広げられているのである。

中心となるテーマが核兵器やミサイルの廃棄問題という機密性や専門性の高い軍事・安全保障問題であるため、まだ外交官の出る幕ではないのかもしれない。しかし、スパイ組織が外交をするとなると、どうしても危なっかしさがつきまとう。

今年に入ってからの北朝鮮をめぐる動きを振り返ると、平昌五輪以降、韓国と北朝鮮の接近で中心となって動いたのは、韓国は国家情報院の徐薫(ソ・フン)院長、相手方の北朝鮮が朝鮮労働党副委員長で統一戦線部の金英哲(キム・ヨンチョル)部長だ。二人は板門店での南北首脳会談にも同席していた。

かかわるべき外交の専門組織がはずされた

国家情報院はかつて朴正煕(パク・チョンヒ)政権時代に国内の反政府勢力の弾圧なども担ったKCIA(韓国中央情報部)の流れをくむ組織だ。大統領直属の組織で、安全保障に関係する内外の情報収集や犯罪捜査とともに、北朝鮮問題も担当している韓国の情報機関である。

院長の徐薫氏はこの組織に長く勤める北朝鮮問題の専門家で、2000年と2007年の南北首脳会談にもかかわった経験がある。昨年の大統領選では文在寅(ムン・ジェイン)候補の陣営に属して外交や安全保障政策を担当し、政権発足とともに院長に就任した。

今回、徐氏は南北首脳会談実現に向けて韓国の特使団の一人として北朝鮮を訪問し、金正恩委員長と会ってトランプ大統領との会談に応じるという発言を引き出した。その後、米国と日本を訪問しトランプ大統領や安倍晋三首相に金正恩氏の発言を伝えたのも徐氏である。南北首脳会談終了後にも訪日して会談内容を安倍首相に伝えるなど活発に動いている。

一方、北朝鮮で徐氏のカウンターパートとなっているのが金英哲・統一戦線部長だ。統一戦線部も北朝鮮の代表的な情報機関で、公然と宣伝活動を行うことでも知られている。また南北関係も担当している。そのトップの金英哲氏は軍の情報組織である偵察総局長というポストも経験している人物だ。

もともと韓国と北朝鮮にとって南北関係は一般的な外交関係ではない。そのため韓国では統一部が、北朝鮮は祖国平和統一委員会という外交セクションとは別の組織が主に担当している。したがって一連の過程で南北共に外交部が表に出てくることはほとんどなかった。しかし、そこに米国や日本がかかわってくることになると話は別で、本来は情報機関ではなく外交部が動くのが筋であろう。しかし、今回、そうした気配はまったくない。

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