「国連PKO」に日本はどう取り組むべきなのか 縮小と変質が進む中、再検討する時期にある
こうした質・量の両面からの変質によって、国連PKOは、危険な任務にもあえて踏み込んで活動するようになった。それが犠牲者数の増加にもかかわっていることは言うまでもない。そのためすでに「国連マリ多元統合安定化ミッション=MINUSMA」(2013年~)だけで162名の殉職者を出している。国連要員を狙った攻撃が繰り返されているためである。マリの国連PKOは、フランスや「サヘルG5」(マリ、モーリタニア、ブルキナファソ、ニジェール、チャドの5カ国)と呼ばれる周辺国による軍事展開と連動して活動している。そのため国連PKOも「対テロ戦争」の一環として展開しているのと同じになってしまっている。
史上最大規模の要員・予算を動員し、かつてない野心的な内容の活動を実施し、それでもまだ足りず各地でAU(アフリカ連合)やECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)などの地域機構・準地域機構とも緊密に連携して進められてきた国連PKOは、遂に昨年から明確な縮小傾向に入った。背景には、野心的な内容で拡張しきった現在の国連PKOの体制を、今後も継続していくことが難しい、という事情がある。
コートジボワールやリベリアでのPKOの終了は予定通りとされているが、ダルフール(スーダン)やコンゴ民主共和国の大規模ミッションも縮小された。昨年7月から本年6月までの会計年度では、前年度と比して、約10億ドル・要員数1万人が減った。中央アフリカ共和国やマリにおける最新のミッションも削減対象になっており、予算削減・要員削減の流れは続きそうである。
2015年に報告書を提出した「平和活動に関するハイレベル独立パネル(HIPPO)」は、「政治の卓越性」や、「パートナーシップ」の重要性などを強調していた。今後の国連PKOは、よりはっきりと政治調整機能の提供に特化し、現場では(準)地域機構などとの協力関係を一層発展させながら、存在価値を維持する努力を続けていくことになるだろう。
戦略的なかかわり方の検討を
日本は現在、国連PKOに部隊派遣を行っていない。国内では、日報問題の余波がしばらく続くだろう。自衛隊の位置づけをめぐる改憲問題も、どうなるかわからない。その意味では、近い将来の国連PKOへの部隊派遣の可能性は、さほど高くないと推察せざるを得ない。一方今、国連PKOの野心的な内容は維持されながらも、予算・要員が縮減されつつあることは、さらにいっそう日本の国連PKOとのかかわりの行方を不透明にする。
そんな中で日本は、兵站後方支援に力点を置き、アフリカ諸国への能力構築支援活動(自国が有する能力を活用し、他国の能力の構築を支援する活動)を通じた国連PKOとの間接的なつながりなどを発展させる道筋を探っていくことになる。しかし、現場経験があって初めて側面支援も活きてくるものだ。
過去10年余りの間に、国連PKO分担金で2割の比重を誇っていた日本は、その経済規模の停滞により、今や1割未満の水準にまで財政貢献比率を下げた。代わりに中国が日本を抜き去り、米国に次ぐ第2位の財政貢献国となっている。日本と中国の差は、中国の急激な経済成長により、今後急速に拡大していくだろう。中国は国連安保理の常任理事国であり、2600人もの国連PKO要員を提供している国でもある。マリにおけるPKOでは、殉職者を出しながらも北部地域へのPKOの展開を支え続け、存在感を高めている。
こうした国際環境を見ると、日本が国連PKOで主導的な役割を担うような未来像が、もはや幻想でしかないことが明らかである一方、日本が国連PKOとのかかわりを絶って孤立無援の大国として生きていくような道も非現実的であることもわかる。
いつかは安保理常任理事国に、といったバブル時代の古い外交スローガンを改め、国力と国際環境に応じた、国連PKOとの戦略的なかかわりを再検討する時期に来ている。
(文:篠田英朗/東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)
Foresightの関連記事
金正恩「核・ミサイル中止宣言」の衝撃(下)「金ファミリー」傾斜と「取り残される」日本
矛盾に満ちた「原発政策」を国民は本気で「議論」せよ
布施祐仁、三浦英之『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら